「個人事業主は退職金が無くて年金が少ない」は本当なのか?独立するなら知っておきたい制度とは

働き方が多様化し、専門的な技術や知見を活かすため、あるいは、自由なワークスタイルを求め、「独立したい」と考えている方もいるでしょう。しかし、独立して個人事業主になると、対策を講じなければ将来の保障が薄くなってしまいます。

定年制度のない個人事業ですが、仕事を辞めて引退した時に備えるための退職金や年金制度は、どんなものがあるのでしょうか?


賞与も退職金もない個人事業主の実情

会社員は厚生年金に加入することができ、将来の公的年金も老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建てで受給できます。また、安定した給与の他に賞与も支給されれば、これを計画的に将来への貯蓄に回すことができます。そして、企業年金制度や退職金制度もあるため、公的年金だけでは不足していたとしても、リタイア後に必要な資金を十分賄うことができます。

一方、個人事業主には賞与も退職金も企業年金もありません。毎月の売上による収入も不安定となることもあります。また、個人事業主として国民年金の第1号被保険者になると、厚生年金加入対象から外れ、国民年金保険料(2022年度:月額16,590円)を納付することになりますが、2階建ての1階部分(老齢基礎年金)しか増やせず、2階部分(老齢厚生年金)は増えないままとなり、年金による保障にも不安が残ります。しかし、個人事業主を対象とした制度もありますので、活用して備えることができます。

個人事業主のための制度とは?

まず、個人事業主向けの退職金制度として、「小規模企業共済」という制度があります。これは小規模な企業の経営者や個人事業主を対象とした制度で、毎月掛金を拠出し、65歳になった時や廃業した時に共済金が受け取れることになっています。掛けた月数や掛金に応じて共済金の額が決まります。掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で、500円単位で設定できます。

厚生年金のない国民年金第1号被保険者に上乗せとなる年金もあります。

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金を拠出して自ら運用商品を選択し、運用結果に基づいた老齢給付金を受け取ることができます。掛金、運用益、そして給付金も税制上の優遇措置が講じられるメリットがあります。また、国民年金基金は、掛金を拠出することで、老齢年金を受給することもできます。掛金が所得控除の対象となって、所得税と住民税が軽減されます。

iDeCoも国民年金基金も、掛金の上限は月額68,000円ですが、両方に加入した場合は合算して68,000円が上限となります。なお、付加保険料(※)を納付する場合は国民年金基金に加入できず、付加保険料を納付した場合のiDeCoの掛金の上限は67,000円となります。
※月額400円、「200円×付加保険料納付月数」で計算された付加年金を65歳から受給可能で、2年以上受け取ると支払った付加保険料以上の年金が受け取れる

他に、農業に従事している一定の第1号被保険者は、「農業者年金」に加入できます。ただし、農業者年金に加入すると先述の付加保険料の納付が条件となることと、国民年金基金やiDeCoと併用ができないので、どの制度を活用するか検討が必要になります。

将来に備えながらも節税もする!

先述した通り、これら将来への備えのとなる掛金・保険料で所得税・住民税の節税も可能です。国民年金基金の掛金、付加保険料、農業者年金の保険料は社会保険料控除の対象になります。また、小規模企業共済やiDeCoの掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象となります。民間の生命保険や個人年金に入った場合の生命保険料控除は上限(最大でも12万円)があるのに対し、社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除は、その全額が控除対象となります。つまり、それだけ課税対象となる所得が減少することになるので、その結果、所得税や住民税の軽減も大きくなります。

特に小規模企業共済は、預金から小規模企業共済へと資金を移すことで、将来の資金を用意しながら節税もできることになります。事業をしていると、業績の良い年もあれば悪い年もあることでしょう。事業の売上に応じて掛金を柔軟に変えることができるだけではなく、事業で急な資金が必要になった場合に、払った掛金を元にした事業資金の貸付制度も活用できます。

いずれ、株式会社などの設立で、法人化することもあるかもしれません。法人の代表者となって役員報酬を受け取ると、会社員と同様に厚生年金保険制度と健康保険制度に加入することができます。ただし、それらの保険料については、被保険者負担分だけを負担していた会社員の場合と異なり、会社負担分と被保険者負担分両方の負担があることを意識する必要があります。しかし、公的年金を2階建てにしておくと、将来の保障も厚くなるでしょう。

厚生年金加入によって、iDeCoの掛金上限は月額23,000円に減りますが、その一方で、企業型DCの加入もできるようになります。さらに、法人化すると比例税率方式である法人税の対象となって税金の負担も変わりますし、法人の設立・運営でさまざまな費用(法人の登記費用、法人税申告についての税理士への報酬など)が発生することにもなります。これらも踏まえて法人化を検討するとよいでしょう。


会社員ではない、個人事業主のための退職金・年金制度はたくさんあります。すでに独立されている方も独立を検討されている方も、自身に合った制度を選択して、将来の備えに活用してください。

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