<社説>沖縄振興基本方針 自立の成果後退させるな

 今後10年間の国の沖縄振興の方向性を位置付ける「沖縄振興基本方針」の最終案が、首相の諮問機関である沖縄振興審議会で13日に了承された。2012年の基本方針で明記されていた「沖縄の自主性を最大限に尊重」の文言が今回は削除されていたにもかかわらず、審議会委員でもある玉城デニー知事は「問題ない」との認識を示し、審議会で異議はなかったという。 沖縄の自主性を担保する文言の削除は、歴代県政の成果を後退させるもので看過できない。沖縄自らが主体的に振興施策を講じていくという県政の取り組みを発展継承できるのか、玉城県政の認識が問われる。

 沖縄の日本復帰以降、国が沖縄振興計画を策定してきたが、復帰40年の12年度にスタートした第5次沖縄振興計画で策定主体が県に移った。より自由度の高い一括交付金制度も合わせて創設され、県の裁量が拡大した。

 この時は仲井真弘多知事の県政だった。国政との協調を重視した仲井真県政だったが、新たな沖縄振興の制度設計では歴代の県政が目指した自治や自立の目標に向け、県自らで振興計画を策定することと、計画を達成していく裏付けとなる財源として国の「ひも付き」ではない交付金制度創設に力点を置いた。

 ただ、計画の策定主体が県に移ったとはいえ全権委任ではなかった。振興計画を策定する際の指針として、国が沖縄振興基本方針で振興の意義や方向、基本的な視点を定めることとし、計画の上位に国の関与を残す構造となった。

 復帰50年は、こうした歴代県政の積み重ねた成果をさらに前進させる節目だったはずだ。しかし、沖縄振興特別措置法の延長など既存制度の維持に終わり、国の基本方針から「沖縄の自主性を最大限に尊重」の文言まで削除された。

 玉城県政は米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、沖縄への新基地建設を国に押し付けられる不条理と対峙(たいじ)している。本来であれば政権とのパイプを重視する県政以上に、振興でもより自立的な経済構想を緻密に練り上げ、交渉する戦略が問われるはずだ。振興推進は国頼みでは自立の目標の形骸化が危ぶまれる。

 基本方針には「施行後5年以内の検討・見直し」が新たに盛り込まれた。費用対効果の検証や環境変化への対応は必要だろう。一方で、沖縄関係予算だけが使い方や効果を厳しく検証され、国が恣意(しい)的に予算や制度を左右することがあってはいけない。

 毎年3千億円前後の内閣府の沖縄関係予算について、沖縄だけ特別な予算を受け取っているという誤解が国民の間に根強い。他県では各省庁が個別に計上する費用を、沖縄だけは内閣府が一括して計上しているに過ぎない。

 振興予算は基地と引き換えの対価という印象操作につながらないよう、県政の発信を強化することも重要だ。

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