東京・赤坂の異空間で味わう本格江戸前すし ランチには「散らさない」ちらしずし【にっぽん食べ歩き】

「すし いわお」の「ちらしらず」

 東京有数の繁華街、赤坂。メインストリートの一ツ木通りから一歩脇に入った寺の境内に、一戸建ての住宅や小さな商店が軒を並べるひそやかな空間が隠れている。その一角に国内外の高級ホテルなどで長年、すしをはじめとする和食を取り仕切ってきたベテラン料理人が江戸前のすし店を開いた。(共同通信=中村彰)

ケースのネタを見せる岡部巖さん

 ご主人は岡部巖(おかべ・たかし)さん。ヒルトン東京(東京都新宿区)やフォーシーズンズホテル香港の和食レストランの料理長を歴任。「お客さんと対面でできる仕事をしたい」と、自分の名前の訓読みを使った「すし いわお」をオープンした。

 ランチタイムは1日16食限定の散らさないちらしずし「ちらしらず」(6000円)で勝負する。お重に敷き詰めたシャリの上に4×4=16種の具材を市松模様のようにあしらい、見た目も鮮やかな一品に仕立てた。

 シャリにはシイタケ、かんぴょう、白身魚のおぼろ、キュウリなどがまぜ込まれている。ぎっしりと乗ったネタはマグロ赤身、トロのすき身、アナゴ、エビ、サーモンなど色とりどり。食べるのがもったいなくなるほどの仕上がりだ。

 岡部さん自らが豊洲市場で厳選した最高の食材ばかり。一つのネタをいただいている間にほかのネタもおいしそうに見え、つい「迷い箸」をしてしまう。結構なボリュームだが箸の動きを止められなかった。

鮮やかなトロのにぎり

 夜の部はお任せのにぎりのコース(2万2000円)が待っている。シャリは宮城県産ササニシキの中でも大粒の品を厳選。合わせる酢はマグロや青物など脂が乗ったものにはうま味に富んだ赤酢、白身魚には優しい味わいのものを使い分けている。ネタは新鮮なのはもちろんだが、伝統的な江戸前の技法を土台にした上で、岡部さんの独創的な仕事がされている。

 丁寧に締めたコハダは温かいシャリで提供。カスゴダイからはスダチの香りが。サワラはほんの数分だけコンブで締め風味付けをしている。

キャビアが乗ったノドグロのあぶり

 びっくりしたのはノドグロのあぶり。熱々のあぶりたてのノドグロにはドイツから直輸入のキャビアがどっさり。岡部さんが手渡しでサーブする。

 マグロの漬けは通常の漬け汁にある工夫が施されている。同席していた人が見事にどんな工夫か当てたが、自分は言われるまで分からなかった。岡部さんは当たっていれば「正解です」と答えてくれるが、自分からは絶対に答えを教えてくれない。どんな工夫か想像を巡らすのも楽しみの一つになるだろう。

フワフワのアナゴ

 このほか、低温でじっくりとゆで上げた大きな車エビ、とろけるようにフワフワのアナゴなどを満喫した。

 「すし いわお」は公式インスタグラムを開設している。土曜、日曜、祝日は休み、水曜はディナーのみ営業。

白いのれんが掛かる「すし いわお」と周囲の街並み=東京・赤坂

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