『愛情不足』 人と向き合うことがどんなに難しく、どんなに大切なことか アンダーグラウンド ルポ 佐世保の今・6(完)

事業所が運営しているシェルターの部屋

 事業所の存在を知ったのは、別の取材をしていた時だった。気になって事業所のホームページを開くと、「もう、ひとりじゃない」とある。活動内容を知りたくて、昨夏に初めて事業所に足を運んだ。
 生活保護を頼りに大阪から佐世保までたどり着いた20代男性や、母親から10年以上自宅に閉じ込められていた30代男性、会社の経営者だったがホームレス状態になった50代男性…。そんな人たちが事業所につながっていた。佐世保で起きていることなのかと耳を疑った。
 利用者の背景を取材すると、家族から捨てられた複雑な家庭環境や、家族ごと地域から孤立している状況が浮かび上がってきた。子どもに発達障害の疑いがあるのに障害を認めたくなくて検査を受けない親や、共依存に陥った親子が生活に困窮する事例も耳にした。
 事業所では、さまざまな“事件”が繰り広げられていた。「手首がうまく切れないという連絡が入った」「ひきこもり状態になり、家で暴れているらしい」-。そんな生々しい会話が飛び交い、代表や職員らは常に慌ただしく動き回っていた。ありとあらゆる人を全力で受け止める努力と熱心な姿に心打たれた。
 地道な活動が評価され2021年度に佐世保署と江迎署から感謝状を受けた。一方、取材しようと考えていた利用者の20代男性が事業所から“脱走”し、支援の難しさも目の当たりにした。
 現状を伝えようとペンを握ったが、正直、そう簡単にはまとめられなかった。利用者らの社会や家族から疎外されていた状況が想像するだけでつらくて、しばらく飲み込めなかった。代表と日本の社会構造や家族関係について深夜まで議論したが、根深く複雑に絡み合う問題ばかりで、今でもうまく消化できずにいる。
 代表は「ほとんどの利用者は家庭に問題がある。『愛情不足』を感じる」とよく口にしていた。だからこそ、代表は父親のように、理事は母親のように利用者と職員に温かく接していた。
 人と向き合うことがどんなに難しく、どんなに大切なことか-。新型コロナウイルス禍で、以前にも増して格差や分断などが深まっている気がするからこそ、事業所で目にし、感じたことが身に染みた。
=おわり=


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