全国有数の生産量を誇る食用の秦野市産ヤエザクラを活用できないか─。そんな“秦野っ子”の思いを形にしようと、市立中学校の給食で14日、塩や梅酢に漬けて加工したヤエザクラを混ぜ込んだ「桜ごはん」が提供された。地元ならではの進級進学祝いの献立に生徒は「初めて食べたが、優しい味で自分にとってのふるさとの味だと思った」と頬を緩ませた。
同市の食用ヤエザクラの歴史は江戸時代末期にさかのぼる。地域の祭りの費用を捻出するため、同市西部の千村地区で自生していたヤエザクラの花やつぼみを収穫したのが始まりとされる。現在も約130軒の農家が約2500本を栽培し、桜湯や菓子に使われる食用のヤエザクラを生産している。生産量は年間15~20トンで、全国有数という。
しかし花の摘み取りは高さ10メートルでの作業となり高齢化が進む生産者には重労働なことに加え、新型コロナウイルスの影響で桜湯が出される祝いの席も激減。買い取り価格が低迷し、伝統産業は衰退の危機にある。
そうした状況を受け、千村地区に近い市立渋沢中の生徒が授業の一環でヤエザクラの活用方法を探し始めた。同中の校内には20本超のヤエザクラが植えられ、身近なサクラとして親しまれている。アンケートにはクッキーやゼリーなど食べ物に活用するアイデアが寄せられ、市が生徒たちの思いを形にしようと、進級進学祝いを兼ねて「桜ごはん」を提供することにした。