竹の秋、竹の春

 この季節、旧知の山の地主さんに許可を得て、西彼長与町の竹林でタケノコ掘りをするのが恒例になっている。おぼつかない手つきだが、くわやスコップを根元に打ち込んで、てこの原理で掘り起こす。今がまさに旬で、採れたて、ゆでたては香り高くて柔らかい▲新緑がまばゆい頃なのに、竹林では竹の葉が黄色に枯れて土を覆っている。地下の茎から勢いよく伸びたタケノコに、親竹が栄養分を取られるためだという▲まるで秋の黄葉のように、葉が一斉に黄ばんださまを「竹の秋」と呼ぶ。旧暦の3月、今の暦で言う4月の異名でもあるらしい▲今からぐんぐん伸びる人のそばに、ありったけの栄養を与える誰かがいる。この春、第一歩を踏み出した新社会人がそうだろう。これまで育ててきた人、これから育てる人がいてこそ背丈も伸びる▲4月も半ばを過ぎ、研修を終えて配属先が決まったり、もうしばらく研修が続いたりと、気の張った日々を過ごしている人はきっと数多い。もう三十数年も昔だが、周りがやたらと大きく見えて、たじろいでいた新人の頃のわが身を、この時期になるとほろ苦く思い出す▲「竹の秋」に対して、若竹が成長して茂らせた美しい緑を「竹の春」と言う。周りの支えや経験を養分に、ひたむきさを原動力に。やがて竹の春が巡り来る。(徹)

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