新井市出身の劇作家清水邦夫をしのぶ 演劇、トークでアプローチ 高田世界館でイベント  地元演劇人有志が取り組み

 新井市(現・妙高市)出身で昨年4月に亡くなった劇作家、清水邦夫さんの追悼イベントが17日夜、上越市本町6の高田世界館で開かれた。清水さん作の演劇、清水さんに関するトーク、オリジナル演劇の3部構成で行われ、その独自の世界にさまざまな方面からアプローチした。

清水さん作の「朝に死す」。偶然出会った男女2人の世界を描く

 清水さんは1936(昭和11)年生まれ。2021年に亡くなるまで数多くの戯曲を執筆。演出家の蜷川幸雄さんとコンビを組んでの活動や、俳優の蟹江敬三さんらと劇団を結成して活躍した。「真情あふるる軽薄さ」「ぼくらが非情の大河をくだる時」「楽屋」などの作品で、岸田國士戯曲賞をはじめ数々の賞を受賞。地元の新井や高田などを舞台とした小説も執筆し、芥川賞候補に3回ノミネートされた他、平成3年に開校した新井中央小の校歌で作詞を手掛けている。

 今回のイベントは清水さんを追悼するため、地元演劇人有志で結成した「清水邦夫を偲ぶ演劇の会」による取り組みの大千穐楽(せんしゅうらく)として実施。最初に上演された「朝に死す」は、組織を裏切って逃げる男、その途中で巻き込まれて足を撃たれた女の一夜を描く。工場の壁の前で、二人だけで展開していく世界に観客は引き込まれた。

 続く「くびきの演劇人トークライブ」では、上越の演劇人5人が清水さんの作品を演じた感想などを語り合った。演出を担当したこーすけさん(52)は「難しくも、いろいろな角度から見ると素晴らしい作品。時代は違えど、描かれた役者の普遍的な魂は今も変わらない」と評価。「楽屋」でメーンの女優役を務めた新山仁海さん(50)も「長ぜりふが多かったが、女優という仕事に人生を懸けていること、生きざまを表現したかった」と役への思いを語った。

演劇人によるトーク。清水さんの作品を演じたさまざまな人が、それぞれの目線で作品の魅力などを語った

 当日、「朝に死す」に出演した石田智輝さん(15)は、昭和年代の表現や言葉にギャップを感じながらも「一つ一つ意味が分かっていくことが新鮮で、楽しかった。俳優を目指す中で、この地、この場所で、この演劇に出られたことはとても大きい」と感慨を語った。「ぼくらは生まれ変わった木の葉のように」で妻役を演じた長田栄子さん(66)は「所属している劇団空志童(そらしど)立ち上げにも、清水さんが関わっていて縁を感じる。この地で、この演劇を演じたい人は、ぜひ参加を」と呼び掛けた。

 司会を務めた「清水邦夫を偲ぶ演劇の会」代表のマルまるやまさん(52)は、15年前に妙高市で開かれた演劇祭で清水さんに出会い、芝居の評価をしてもらったという。いずれはこの地でまた自分たちの芝居を見てもらおうと、「朝に死す」の上演準備を進めていた昨年、訃報を聞いた。今回、演劇の会を立ち上げて1年かけ、10公演を実施。「偉大な演劇作家が上越の地にいたことを、多くの人に知ってもらいたかった。今後も何らかの形で上演を続け、次の世代にも思いをつなげていきたい」と願った。

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