スマホアプリでごみ減らし、開発に挑んだ研究者と放浪学生 4月22日は「アースデー」

荒川河口に散らばるごみ=2016年2月、東京都江戸川区(提供写真)

 この10年ですっかり普及したスマートフォン。交流サイト(SNS)や音楽、地図、ニュース、ゲームといった、さまざまな種類のアプリがある。河川ごみの問題を遊びながら学べる「FLOAT(フロート)―River & ZEN & Chill」や、ごみ拾い活動のSNS「Pirika(ピリカ)」は、社会課題に取り組むアプリだ。4月22日は地球環境を守る日として世界に広まった「アースデー(地球の日)」。この日、IT大手アップルが一押しするアプリの開発裏話を紹介したい。(共同通信=吉無田修)

 ▽きっかけはコロナ

 アプリ「フロート」を提供するNPO法人「荒川クリーンエイド・フォーラム」は、河川敷でごみを拾いながら、河川ごみや水質、自然回復の問題を考え、豊かな自然を取り戻そうとする活動だ。事務局長の今村和志さん(40)はウミガメの研究者で、荒川の活動をモデルとした世の中のごみ問題の解決を目指している。

アプリ「FLOAT(フロート)―River & ZEN & Chill」と「Pirika(ピリカ)」のアイコン

 埼玉県と東京都を流れ、東京湾に注ぐ荒川でも目立つプラスチックごみは、海洋汚染を引き起こしていることで知られる。劣化して細かく壊れた「マイクロプラスチック」を、生き物が摂取するため、食物連鎖などを通じた悪影響が世界的に懸念されている。日本では、2020年に全国でレジ袋が有料化され、今年4月にはプラごみの排出削減やリサイクルを進める新法が施行された。

 環境問題への関心の高まりを背景に、荒川クリーンエイドの参加者はピーク時で年間1万3千人を超えていたが、新型コロナウイルス感染症の流行で活動が大幅に縮小し、20年度は約1600人にとどまった。

NPO法人「荒川クリーンエイド・フォーラム」事務局長の今村和志さん(提供写真)

 フロートは「コロナで現場に行きにくくなっても、アプリでもいいから、河川ごみ問題を知ってもらいたい」(今村さん)との考えで、デザイナーのかきぬまつとむさん(39)と一緒に作った。

 かきぬまさんは、スマホ登場で09年ごろにアプリ開発がブームとなる中、自然科学系のアプリを作りたいと思い立ち、勤めていた会社を辞めて独立した。絵本作家の加古里子さんの著作「地球 その中をさぐろう」に登場する地形の「土」を主題としたアプリ「SOIL(ソイル)」を手がけた。これに荒川クリーンエイドが協力した経緯がある。

 ▽社会実験

 フロートでは、アプリ内の動画広告を見たり、お金を払ったりすると、荒川クリーンエイドのスタッフが実際に現場に行って、ゴミを拾う。社会実験の仕組みを取り入れ、仮想現実と現実の世界をつないだ。こうした収入は、アプリの更新や、活動費用に充てる。

「フロート」アプリの画面

 アプリにはゲームもある。上流から流れてくる「河川ごみ」をタップやスワイプの操作で波を作り「白いカゴ」で回収する。連続して回収に成功すると、河川の生き物が登場する。「無心でゴミを回収してほしい。癒やし系アプリです」(かきぬまさん)という。

 ゲームは、荒川と、アフリカ東部を流れるナイル川の二つのステージを用意した。それぞれ、1975年と1875年の様子を再現した機能も付けた。例えば、1975年の荒川はペットボトルのゴミはないが、川底にガラスゴミや空き缶のプルタブが沈んでいる。ナイル川はゴミがまだ少なく、その後の経済成長でゴミが増えたことが分かるようにした。

デザイナーのかきぬまつとむさん(提供写真)

 アプリ開発費は300万~400万円。日本たばこ産業(JT)から助成金を受けている。昨秋にアプリストアを通じて提供を始めた。ただダウンロード数は「悲しいことに200回ぐらい。あり得ないぐらい少ない」(かきぬまさん)と大苦戦している。JT側に示した「1万回」が当面の目標だ。

 今後は、ステージや機能を追加する予定だ。海外の河川清掃団体との協力も検討しているという。アプリ内の収益を分配したり、情報を共有したりできる基盤を目指す。

 ▽世界の問題

 「ごみ問題は一つ一つは小さく見え、大きな問題と思われずに放置されているが、世界中どこに行ってもある。これを解決したい」。

 環境ベンチャー企業ピリカ(東京)の代表、小嶌不二夫さん(35)は、京都大大学院時代に休学して世界を放浪し、インドなどでごみ問題の深刻さを目の当たりにした。帰国後にごみ拾いSNS「ピリカ」の開発を始め、大学院を中退し11年に会社を設立した。

 ピリカは、アイヌ語で「美しい」という意味で、アプリのアイコンは、北海道の一部などで繁殖している鳥の「エトピリカ」だ。

「ピリカ」アプリの画面

 アプリ利用者は、ゴミを拾って、スマホで写真を撮って共有する。他の利用者から感謝の言葉などが寄せられ、活動を広げていく仕組みだ。

 ピリカを使ったごみ拾い活動は着実に成果を上げている。これまでに約2億3千個のごみを回収した。世界112カ国・地域で利用され、参加者数は延べ200万人に上るという。

 自治体や企業向けに有料サービスも提供している。自治体には、地域ごとのページを設け、地域清掃活動の詳細なデータを提供する。企業向けにも、専用の社会貢献活動のページを作っており、大手飲料メーカーなどに利用されている。「収入をいただくことで、アプリは黒字になっている」(小嶌さん)という。

 ▽「ウソ」が本当に

 ピリカが世界各国で利用されているように見えるのは種明かしがある。実は、利用者の95%以上は日本人。アプリ開始時、注目を集めるために卒業旅行で海外に行った友人に頼み、海外10カ国程度で使われているとアピールしたことが影響しているという。その名残もあって、海外旅行先でゴミを拾ったことを知らせる投稿が多い。

環境ベンチャー企業ピリカ代表の小嶌不二夫さん(提供写真)

 利用拡大に伴い、日本人の海外旅行客だけではなく、浸透し始めた。小嶌さんは「米国やドイツ、英国などで、本当に地元の方が自主的に使うケースも増えてきて、(世界各国で利用されているように見える)『ウソ』が本当になってきた」と話す。

 アプリは日本語のほか、英語、中国語、タイ語に対応しており、今後、スペイン語も対象とする予定だ。

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