線を引く

 平面に「線を引く」と、もとの平面は二つに分割される。ノートのページに縦の線を引いたら「右」と「左」に、横の線なら「上」と「下」だ▲手元の辞書には「線」について〈その範囲内にある限りそのものであり、それを越すとそのものでなくなるとされる目に見えない仕切り〉という、丁寧すぎて難解にさえ思える定義も載っている。線を引くのは、物事の境界を明らかにする行為でもある▲前置きが長くなった。では、この線はどうだろうか。物価高の緊急対策で、政府は〈低所得の子育て世帯を対象に子ども1人当たり5万円を支給する方向で最終調整に入った〉-昨日の紙面から▲その線から入らないで、と言われるのは、どんな場面でも気分の悪いものだが、この線はまた少し違っている。線の内側に入れば「低所得」とされ、外側なら給付の対象外。どちらに入っても喜ぶ気持ちにはなりにくい▲そもそも、物価高の影響を受けない家計などないから、議論が「子育て世帯」に限られる理由はないだろう。十分な説明のないまま国民を分け隔てるような政策ばかり持ち上がっているように思えるのは気のせいか▲「線はどこかに引かねばならない」という理屈はあり得るだろう。ただ、考え抜き、悩み抜いて引かれた線のようには、あまり見えない。(智)

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