選挙結果を左右する各政党組織、業界団体組織を観察する (データアナリスト 渡邉秀成)

前回、期日前投票をする有権者の割合が増えていることについて取り上げました。期日前投票制度を利用する人は下記グラフのように増えています。

図1_参議院選挙における期日前投票者数_利用割合

 このように期日前投票をする有権者が増えているということは、投票日以前に投票先を決めている有権者が多数いることを示しています。
 実際、有権者にいつ投票先を決めましたか?という調査結果を見ると、選挙期間に入る前から決めている人の割合が4割近くになっています。

図2_投票決定時期

 これらの調査結果をみると、普段から組織票を固めることが大切であると、選挙関係者が口にするのも当然なのかもしれません。

 実際になんらかの団体に加入している人は、選挙で投票する割合も高いことが、選挙後の調査結果でも明らかになっています。

図3_所属団体と投票参加率

 何らかの団体に所属する人の投票参加率が高いのは、所属団体内での情報交換等で、人との接点が多く所属意識などが醸成されるからかもしれません。

 このようなこともあり、各政党、候補者は後援会や政治団体をつくり、さまざまな組織をつくることが多くなります。組織をつくることで選挙での集票も期待できます。

 今回は各政党の政党支部や各業界の政治団体がどの程度のあるのかについて観察してみたいと思います。

この政治団体ですが総務大臣に届け出てあるものと、各都道府県選挙管理委員会に届け出ているものがあります。

最初に全体像を把握するために総務大臣届出の政治団体と、各都道府県選挙管理委員会に届け出をしてある政治団体の数はどのくらいあるのかを見てみます。
総務省と都道府県選挙管理委員会の公表資料から都道府県別の政治団体数を算出しました。グラフ化をすると下記のようになります。

図4_総務大臣届都道府県選挙管理委員会届出政治団体数

 政治団体数は全部で5万団体を超えています。 そして都道府県別にみると東京都が最も多く、北海道と続きます。大都市圏で政治団体が多いこともわかります。
(これらは各政党の政治団体、各業界政治団体、その他の政治団体を合計したものです)

 全体数が把握できたところで、総務大臣届出分の政党ごとの政党支部数について見ていきます。

 総務大臣届出である政党支部は132団体*あります。
 これを政党ごとの支部数でグラフ化したものが次のものになります。

図5_政党ごとの政党支部数

 政党別支部数を見ると自由民主党が圧倒的に多いことがわかります。次いで公明党、立憲民主党と続いています。
 このように総務大臣届出の各政党の支部数を比較をすると、自由民主党と公明党の支部数が他政党より多いことがわかります。

(ここでの政党の支部は[前回の衆議院議員総選挙(小選挙区・比例代表)、前回又は前々回の参議院議員通常選挙(選挙区・比例代表)のいずれかの全国を通じた得票率が2%以上]*のものとなっていることに注意してください)
*[https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/naruhodo04.html](https://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/naruhodo04.html)

上記グラフは総務大臣届出分の政党支部でしたが、
都道府県選挙管理委員会に届出してある政党別の政治団体数を都道府県別にグラフ化するとこのようになります。

図6_政党別都道府県別政治団体数

 都道府県別にみた各政党の政治団体数でも自由民主党が最も多いことがわかります。
 大阪府を見ると日本維新の会の政治団体の割合が多く、北海道、京都府で日本共産党の政治団体の割合が多いことも確認できます。

 上記グラフではわからないのですが各政党は都道府県別に地域、地区ごとの政党支部を持っていることも確認できます。
 特徴的なのは自由民主党で政党支部を見ていくと、医療、薬業、運輸、土木建設等、業界団体ごとに政党支部があるのが、他の政党と異なる点です。他の政党では団体名に業界名をつけたものはあまり見受けられません

 次に業界団体の政治団体についても見ていきます。
 総務省が公表しているその他の政治団体一覧(2864団体)*をみるとさまざまな政治団体があることに気づきます。
*[https://www.soumu.go.jp/main_content/000718003.pdf](https://www.soumu.go.jp/main_content/000718003.pdf)
 報道等で名前を耳にすることがある業界ごとの代表的な政治団体を、
総務省資料をもとに表にまとめたものが下記になります。

図7_業界団体_政治団体

エネルギーでは石油政治連盟、LPガスで、
農業酪農関係では農政連盟、酪農政治連盟、
商業では、全国商工政治連盟、中小企業振興政治連盟等、
士業では日本弁護士政治連盟、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、公認会計士、不動産鑑定士等、
不動産・ビル・建設関係では全国不動産政治連盟、建設業政治連盟、宅建政治連盟、土地改良政治連盟、測量設計政治連盟、全国ビルメンテナンス政治連盟等、
医療・製薬関係では日本医師連盟、日本看護連盟、日本歯科医師連盟、日本獣医師連盟、日本薬業政治連盟、日本薬剤師連盟、
理学療法士連盟、日本臨床検査技師連盟、柔道整復師連盟等、
運輸関係では、郵政政策研究会、郵政政治連盟、トラック輸送事業政治連盟、
理容・美容では理容政治連盟、美容政治連盟等と言った具合に、
業界団体ごとに政治団体があることがわかります。

 ここで利用した資料は総務省資料ですが、都道府県選挙管理委員会が公表している政治団体でも、同じ政治団体の地方団体があることが確認できます。

 そしてこれら団体の公的記録を長期継続的に観察していると、選挙前後の報道でこれらの団体名や公的書類の中に記載されている人物名、法人名が流れてくることに気づきます。
 それだけ選挙、国政運営等に大きな影響を与える個人、団体であることが推測されます。

 各団体に所属している有権者、その家族等が団体から指示された政党、候補者等に必ず投票するわけではないでしょうが、これらの団体があるのとないのでは選挙結果に大きな違いが出てきそうです。

 業界票、組織票と言う言葉を報道等で見聞きしますが、実際にどのような組織があるのかについてはイメージがしにくいので、総務省、都道府県選挙管理委員会が公表している政治団体から、どのような業界の政治団体があるのか、各政党の政治団体数について今回は観察してきました。

 この夏の参議院選挙ではどの団体が、どの政党支援にまわるのかにも注目してみてはいかがでしょうか。

追記:
政治団体名簿は総務省と都道府県選挙管理委員会で別々に公表されています。
そして公開団体ごとに異なる表形式、異なるデータ形式で公開されています。
データ公開形式はPDF形式をやめ、CSV等、機械的読み込みが可能な形式で公開することが望まれます。
(2022年4月7日現在、総務省が公表しているデータ公開形式*に沿って公開している選挙管理委員会はほとんどありません)
*[https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01toukatsu01_02000186.html](https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01toukatsu01_02000186.html)
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