不適切な会計・経理の開示をした企業は54社、最多は製造業の20社【2021年度】

 2021年度(4-3月)に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、54社(前年度比12.5%増)、件数は55件(同10.0%増)だった。2008年に集計を開始以降、2019年度の74社、78件をピークに2020年度は48社、50件と減少したが、2021年度は2年ぶりに社数、件数ともに前年度を上回った。
 2021年度に不適切会計を開示した55件の内訳をみると、経理や会計処理ミスなどの「誤り」が26件(前年度比18.1%増)で最多だった。次いで、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が16件(同11.1%減) 、着服横領が13件(同30.0%増) 。
 産業別では、最多が製造業の20社(同11.1%増) 。以下、サービス業の15社(同66.6%増) と続く。
 金融庁や東証は、ガバナンスの向上に向けた指針整備を進めているが、2021年度も不適切会計を開示した上場企業は増えている。企業側も、コンプライアンス(法令順守)、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から、改めて不適切会計を独自にチェックできる業務フローの必要性が求められる。

  • ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
  • ※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
  • ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、旧市場区分で東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。

開示企業数 2021年度は54社(55件)

 2021年度に不適切会計を開示した上場企業は54社で、アジャイルメディア・ネットワーク(株)(マザーズ)は、2件開示した。
 上場企業は国内市場の成熟に伴い、製造業を中心に海外市場への展開を積極的に行ってきた。これに伴い、2020年度は海外子会社や関係会社で不適切会計の開示に追い込まれた企業が目立ったが、2021年度は国内連結子会社の不適切会計も多かった。
 2022年1月11日、東京証券取引所は教育関連サービス(株)EduLabに対し、改善報告書の徴求および上場市場の変更(東証1部からマザーズへの変更)を行うこと公表した。 EduLabは2019年9月期から2020年9月期までの間、虚偽と認められる開示を行い、それに伴う決算内容の訂正を実施した。さらに、2018年のマザーズ上場前から子会社の連結範囲の意図的な調整を行うなど、不正会計を繰り返していたことも判明。東証は情報開示体制を改善する必要性が高いと判断し、改善報告書の提出と上場契約違約金4,800万円を徴求した。

不適切会計

内容別 「誤り」が最多の26件

 内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で26件(構成比47.3%)。次いで、「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」が16件(同29.1%)だった。
 (株)エイチ・アイ・エス(東証1部)は連結子会社でのGo To トラベル事業の給付金の不正受給問題が発覚。2021年10月期決算で不適切な取引の会計処理の修正を行った。
 また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は13件(同23.6%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」など、個人の不祥事にも監査法人は厳格な監査を行っている。

不適切会計

発生当事者別 「会社」が24社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の24社(構成比44.4%)だった。「会社」では会計処理手続きなどの誤りが目立った。「子会社・関係会社」の17社(同31.4%)では売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立った。次いで、「従業員」の10社(同18.5%)、「役員」の3社(同5.5%)だった。
 「会社」と「子会社・関係会社」を合わせると41社で、全体の約8割弱(同75.9%)を占めた。

不適切会計

市場別 東証1部が25社でトップ

 市場別では、「東証1部」が25社(構成比46.2%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」が11社(同20.3%)、「東証2部」が10社(同18.5%)と続く。
 2013年度までは新興市場が目立ったが、2015年度以降は国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立つようになった。

産業別 最多は製造業の20社

 産業別では、「製造業」の20社(構成比37.0%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 「サービス業」の15社(同27.7%)では、子会社の不適切会計による「粉飾」、子会社社員や役員の「着服横領」などのケースが目立った。

 マニュアル作成等のグレイステクノロジー(株)は2022年1月27日、不正会計の発覚で2021年7~9月期の四半期報告書を同日までに提出できず、上場廃止基準に抵触。東証は同日、グレイス株を2月28日に上場廃止にすると発表した。
 同社の設置した特別調査委員会で、売上の前倒し計上や架空計上などで2021年3月期の売上高18億円(単体)のうち、半分以上の約9億9000万円が架空だったことが判明した。前倒し計上は2016年3月期から始まり、経営陣も認識していた。顧客の署名や押印などを偽造し、役員などがストックオプション(新株予約権)の行使で得たグレイス株の売却資金を顧客名義でグレイスに入金する偽装も行われていた。
 金融庁は、上場企業を担当する中小の監査法人が増えていることを背景に、法律に基づく登録制の導入を検討している。企業のグローバル化などで監査の中身が複雑になり、監査法人にも相応の規模が求められる一方、所属会計士が10人に満たない中小法人も多く、監査の質の底上げが課題となっている。
 企業のグローバル化に伴い、海外子会社との取引に関する不適切会計も増加し、国内子会社での不適切会計も相次いだ。また、現場や状況を無視した売上目標の達成へのプレッシャーで、不正会計に走るケースが依然として多い。
 東証は2022年4月、新市場区分に移行した。上場各社はこれまで以上にコンプライアンスやコーポレートガバナンスの意識定着に向けた組織づくりが求められる。

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