「逆流」にあらがう被爆者 「核兵器禁止条約の会・長崎」5月結成 被爆者の運動の危機感 「今までと違う形」で活動

「核兵器禁止条約の会・長崎」結成に向けた会見で、核兵器廃絶への強い思いを語った共同代表の(左から)朝長氏、川野氏、田中氏、本田氏=長崎市岡町、長崎原爆被災者協議会

 長崎の被爆者4団体の代表者が28日、新組織「核兵器禁止条約の会・長崎」を5月28日に結成すると発表した。昨年1月の同条約発効で光が差した核廃絶への動きは、核大国ロシアのウクライナ侵攻で再び暗雲に覆われた。失望、怒り、無力感を抱えながらも、被爆者たちは「逆流」にあらがい、いま一度、核兵器廃絶に向けた一歩を踏み出す。
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 「被爆者がこれだけ核廃絶を訴えても、まだ分かってくれない」
 結成会見前日の27日。長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の田中重光会長(81)はつぶやいた。同条約発効に水を差したロシアのウクライナ侵攻。ロシアは核攻撃をちらつかせて各国を威嚇している。こうした状況に対し、日本は同条約に参加しないばかりか、一部政治家から米国の核兵器を共同運用する「核共有」論まで飛び出した。
 「核兵器をなくすのか、自国も持つべきと思うのか。岐路にある。被爆者が体験した『地獄』を知り、考えてほしいのだが…」
 高齢化する被爆者。発信力の低下も危惧される。「条約の会」は元々、各国に同条約批准などを求め活動した「ヒバクシャ国際署名」の県民の会が母体だが、中心的存在だった被爆者団体の代表者5人のうち、4人は既にこの世を去った。唯一存命の県平和運動センター被爆連の川野浩一議長(82)は「運動がこれからという時に一人また一人と抜けていった。被爆者の時代から次の時代に移っているのは間違いない」と「現実」を語る。
 条約の会は「長崎の証言の会」「県生活協同組合連合会」など5団体も加え、今後、県や長崎市にも参画を求める。共同代表5人の中には被爆2世の女性も。長崎原爆遺族会の本田魂会長(78)が狙いを話す。「運動はまだこれから長くなる。私たち被爆者はもう当てにできない。次の世代に継承していかないと」。
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 被爆者の運動は限界に近づきつつある-。28日、会見に臨んだ4人の代表は口々に危機感を語った。県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(78)は「世界」と「若い世代」を意識し、「今までとは次元が違う形」での活動を進める考えを強調。来月の結成集会の様子を英語とロシア語の字幕を付けてユーチューブで配信し、各種国際会議への若い世代の派遣も目指す。
 「2045年の被爆100年目を目指し、核兵器禁止条約を育てていきたい」と朝長会長。「限界」の先を見据える。

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