指名手配犯も立候補?!しかも当選まで!!候補者本人以外が届出できる制度

選挙に立候補するには必ずしも候補者本人が届け出る必要はありません。様々な事情があって、当日赴くことができない人のために本人以外の人が立候補を届け出る制度が存在します。今回はこの候補者本人以外が立候補の届け出ることができる制度とその制度を利用した珍しい立候補の事例を紹介します。

本人が行かなくても立候補できる

選挙に立候補する際には必ずしも本人が届け出る必要はありません。例えば、衆議院選の選挙区は一定の条件を満たした政党・政治団体が届け出ることができます。そして、衆議院選、参議院選はともに比例区は個人ではなく政党・政治団体単位での立候補になるため、その政党・政治団体が候補者名簿を届け出ることになります。このような方法を政党届出と呼びます。

また、国政の比例区以外の選挙では、本人の承諾を得て、この人を候補者にしたいと届け出る方法もあり、これを推薦届出と呼びます。この本人以外が届け出る推薦届出は様々な事情があって本人が選挙委員会に赴くことができないときに用いられます。例えば、候補者が拘置所にいて外に出ることができない状態での立候補、いわゆる「獄中立候補」はこのような本人以外が届け出る方法を用いることになります。

指名手配犯が立候補

実刑判決を受けていたり、選挙犯罪をしたりなどして、公民権が停止されている状態でない場合で、一定の年齢以上であれば選挙に立候補する権利があります。そのため、前述したように逮捕されて拘置所などに拘留されていても、刑が確定していなければ、選挙に立候補することができますし、犯罪の容疑がかかって警察に追われている逃亡者にも選挙に立候補する権利はあります。そのため、推薦届出の制度を利用して指名手配犯が選挙に立候補した事例もあるのです。

例えば、1985年の宮城県の気仙沼市長選挙では、暴力団組長(とはいえ、組の構成員らしき人はおらず1人の組とも言われていた)が過去2回は無投票となっていた市長選に立候補を表明したものの、告示日の前々日に恐喝未遂容疑で指名手配されてしまい、告示日当日にはこの組長の妻が推薦届出をしています。なお、選挙運動はこの妻が子供をあやしながら原稿を読み上げていたり、街宣車に乗っていたりということが記録されています。この選挙は現職と組長の一騎打ちとなりましたが、現職が34,753票を獲得したのに対し、組長は本人が選挙運動に現れなかったにもかかわらず、1,771票を獲得しています。ちなみにこの組長は選挙の約3か月後に宮城県内で逮捕されています。

当選した指名手配犯

驚くべきことに指名手配犯が立候補した上にその人物が当選したという事例も存在します。「国政を巻き込む汚職事件も?!地方議会の議長の座をめぐる歴史」で軽く触れましたが、1966年に茨城県議会で議長職をめぐる汚職事件が発覚し、10人を超す現職議員が逮捕され、最終的に議会を自主解散するという事態になりました。

さらに、この事件は容疑者が全員素直に逮捕されたわけではありませんでした。議長を務めたこともあり、事件にも深くかかわっている可能性が指摘されていた本沢彦というベテラン議員は逮捕状が出た段階で姿をくらましたため、指名手配されるという事態になったのです。この本沢彦は逃亡中にもかかわらず、有権者に自主解散後に行われる予定の県議会選の事前運動が疑われる手紙を送っていただけではなく、警察にまで自分は選挙に立候補し、その後に当局の調べに応じるという手紙を送り付けました。

警察は手紙の消印から東京都内を転々としていると見て、捜査を行いました。しかし、告示日までに発見することができず、本沢彦は指名手配されて逃亡している状態で本人は姿を見せずに地元の鹿島郡選挙区に立候補したのです。結局、本沢彦は選挙期間中に自首をして逮捕されたものの、県議会選では9,958票も獲得し、定数3の鹿島郡選挙区で3位となって当選しました。

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