<変わる部活・教育と働き方改革の狭間で(上)>『受け皿』 休日は「地域」で指導に 家庭の費用負担増の懸念も

土日部活の外部委託を先行導入している長与中の取り組み。陸上部員の一部が地域クラブで小学生と一緒に練習している=長与町、長与総合公園運動公園広場

 顧問の先生に部活動を指導してもらう。そんな今までの当たり前が変わりつつある。土日も休みなく働く教員の負担を軽くしようと、部活指導を学校だけでなく地域全体で支える仕組みに変えていく方針を、国が打ち出したためだ。うまくいけば長時間労働を大幅に減らせる一方、現場のアレルギー反応も強く、課題は山積している。双方が納得できる着地点は見つかるのか。いま、部活の在り方が問われている。

 日本スポーツ協会が昨年発表した調査結果によると、全国約2千人の中学校教員のうち、休日の部活動を「地域人材に任せたい」と回答した割合は45.6%。また、文部科学省の昨年5月時点の調査では公立中学校の6%で教員が不足し、長崎県内ではその割合が22.6%に上った。部活をはじめ、多岐にわたる業務で学校が過酷な職場という認識が広まり、教員数の不足につながっているという指摘は少なくない。
 こうした問題を受け、文科省は働き方改革の「第一歩」として、まずは中学校の休日部活を学校から切り離し、総合型スポーツクラブやプロクラブ、大学などの地域人材に指導を委託する方針を打ち出した。将来的には高校での導入も視野に入れている。
 有識者会議が5月中に提言をまとめ、2023年度から順次移行させる予定。長崎県教委は全国の動向を見ながら24年度から取り組む方針だ。そんな中、他に先駆けて地域移行を始めた西彼長与町の長与中学校を取材した。

■ 長与町で先行例
 「あいさつ、返事をきちんとします!」
 4月上旬の土曜日。満開の八重桜が咲くグラウンドに、子どもたちの甲高い声が響いた。耳を澄ましてみると、中には声変わりした厚みのある声も聞こえる。
 この陸上クラブでは春から、小学生に加えて長与中の生徒も受け入れるようにした。月3千円を払えば通常部活と別に週2回の指導を受けられる。試合は今までと変わらず中学校のユニホームで出場する。
 指導する島田勝之さん(63)は元中学校教諭。全国大会で活躍する選手を何人も育ててきた敏腕だ。指導からしばらく離れていたが、クラブの誘いを受けて昨年秋に現場復帰した。「もう一度、生きがいを与えてもらった」という島田さんの教えは、礼儀にも厳しい学校の部活そのもの。2年の杉本武翔さん(13)は「平日と先生が違うけれど意外と気にならない。走り方を分かりやすく教えてもらっている」と笑顔を見せた。

部活の地域移行について、長与町が保護者、生徒、教職員に実施したアンケートの回答

■ 指導者の確保は
 長与中はスポーツ庁の指定を受けて、卓球部で昨年7月から土日部活の外部委託を始め、この春から陸上部でも一部取り入れた。既存の総合型スポーツクラブ「長与スポーツクラブ」が指導を請け負う仕組み。生徒の入会は任意で、入会せずに土日を休みに充てる生徒もいる。クラブは「子どもに加えて潜在的な指導者の受け皿にもなっている。現状はウィンウィン(相互利益)ではないか」と捉えている。
 ただ、長与町が昨年10月に実施したアンケートでは、メリットを期待する一方、指導者確保や家庭の費用負担増などへの不安の声も複数挙がっている=図=。
 3月まで長与中の校長を務め、現在は町教委に在籍する金崎良一さん(60)は「教員の声に応えつつ、できる限り生徒の環境が変わらないように気を付けている。普及させるためには経済事情で参加できない子どもを支援できるような奨励金制度なども外せない」と改善の余地を指摘した。

◎長崎県内の声 中学校教諭の40代男性 「強制顧問」強く反対

 教員生活約20年になる。担当科目は理科。週20コマ前後を任されてきたが、運動部活の顧問を外れたことは一度もなく、現在はサッカー部を受け持っている。これまでの赴任校は例外なく教員全員が何かしらの顧問を持たなければいけなかった。3人目の子どもが生まれたばかりで、ここのところ両親の体調も優れない。年度末に「来年は部活を持てない」と訴えたが、校長に聞き入れてもらえなかった。
 部活の後、残った仕事を済ませるために職員室へ戻るのは当たり前。土日は練習だったら楽な方で、年間を通じて大会が多く、朝7時から会場設営に借り出されることもある。残業時間は文科省が禁じている月100時間を超えることも珍しくない。2カ月間、一度も休めなかった時期もあった。
 頑張る生徒を応援したいし、以前の勤務校で九州、全国大会に連れて行った際は誇らしくもあった。部活の魅力は十分に分かっている。ただ、本来は任意のはずの部活指導をなし崩し的に押しつけられ、授業や生徒のことを考える余裕さえない現状は絶対におかしい。
 もう1人いる顧問の先生は臨時採用の身。採用試験の勉強をする時間は取れているのだろうか。それ以前にこの職業に失望していないだろうか。「教員の常識は社会の非常識」とよく言われるが、確かにこのありさまでは教員のなり手が減るのもうなずける。


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