長崎に来た元大統領

 米国の南北戦争で北軍を勝利に導き英雄となったグラント将軍は、1869年から77年まで第18代米大統領を務めた。今年がちょうど生誕200年▲大統領退任後の79(明治12)年6月には国賓として来日。まず長崎に入港、上陸して6日間滞在し、市民の大歓迎を受けた。6月22日、長崎公園(上西山町)の丸馬場に来崎記念の榕樹(ようじゅ)を植えた▲榕樹とはガジュマルのこと。現在の公園には「3代目」として、よく似た木のアコウが高さ5メートルほどに成長し、こずえを広げ緑の葉を茂らせている。枝に鈴なりの直径1センチほどの丸い粒は、果実ではなく花なのだそうだ▲グラントが植えた榕樹は太平洋戦争中に敵国の象徴として切り倒された。戦後、同じ場所に「2代目」が育ち、いま3代目が春の日差しを浴びて輝く。恩讐を(おんしゅう)越えて強固な友情を取り戻した日米関係の象徴であろう▲植樹当時の記念碑は幸い壊されず残り、木の傍らに立つ。「木がいつまでも長生きして日本の将来の象徴になりますように」というグラント直筆のメッセージが刻まれている▲バイデン米大統領の来日が5月下旬と決まった。ぜひ長崎を訪れて「この地を最後の被爆地にしなければならない」と力強いメッセージを発してほしい。大先輩ゆかりの木も、きっとその日を待ちわびている。(潤)

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