<変わる部活・教育と働き方改革の狭間で(中)>『少子化』 団体競技は存続の危機 民間クラブ参加へ調整

少子化に伴い、一部ではチームスポーツの部活が成り立たなくなっている=五島市、五島高第2グラウンド

 部活動の地域移行を進めようとする理由は、教員の働き方改革に加えて少子化がある。生徒数の減少が進む地域では、学校単位で野球やサッカーなどの団体競技、チームスポーツが成り立たなくなり、子どもたちが好きな競技を選べない状況が相次いでいる。地域の受け皿ができることへの関心は高く、対策は待ったなしとなっている。

■ 離島の部員不足
 長崎県本土から高速船で約1時間半。五島列島にある五島高校は県内離島で最も生徒数が多く、夏の高校野球県大会では昨年まで3年連続で3回戦に進出した「離島の雄」だ。2019年はサヨナラ負け、昨夏は延長で敗戦と8強へあと一歩まで迫った。だが、昨夏の大会後に3年生6人が引退して部員数は7人に。単独チームで試合に出場できなくなってしまった。
 救世主となったのは、お隣の五島海陽高校だった。ちょうど同じタイミングで部員不足に陥ったため、双方合意して合同チームを結成。秋の県大会出場にこぎ着けた。
 学校間の距離は徒歩で約20分。日々の練習で特に不便はなく、大会前は毎日合同練習をした。五島高の久保竜晟主将(17)は「野球ができるか不安だったから海陽にはすごく感謝している。人数が増えて、普段できない充実した練習もできた」。現在は新1年生の入部に伴い、2校とも単独チームに戻ったが、秋からはまた、合同チームを視野に入れている。
 一方、島の中学校では満足に練習もできない日が刻一刻と迫っている。
 17年時点で五島市内の中学校11校中、5校に野球部があったが、現在は4校に減少。このうち2校も廃部の危機に直面している。20年前に1600人以上いた市内の中学生は現在785人まで減り、メジャースポーツでさえ満足にできない状態だ。サッカー部にいたってはずいぶん前から市内に1校だけしかない。
 「スポーツでも何でも、やれる環境さえ整っていれば人口減少も一定食い止められるはず。部活の地域移行は課題も多いが、やり方次第で子どもたちが救われる」
 五島高野球部の笠原優監督(27)はそう力を込めた。

■ 過疎地域以外も
 部活におけるチームスポーツの存続危機は、過疎地域だけの問題ではなくなるかもしれない。
 日本中学校体育連盟(中体連)に加盟する13~15歳の数は、09年度の約233万人から、18年度は約200万人と13.1%減少。スポーツ庁のデータでは、48年度に約150万人まで減ると試算されている=グラフ=。
 競技別に見ると、卓球、バドミントンなど増加が予想される競技があるものの、多くの競技が減少。48年度にはサッカーやバレーボールなどが半減、さらに減少幅が大きい軟式野球は1校当たりの部員数が3.5人となるという目を疑うような試算結果が出ている。これを裏付けるように、中体連への合同チーム届出数は全国的にも県内でも増加傾向にある。
 こうした中、中体連は23年度から学校チームだけでなく、民間クラブも全国中学体育大会(全中)に出場できるよう参加要件を緩和する方向で調整中。部活の地域移行と足並みをそろえる形で改革に踏み切る。
 一方でクラブ化の流れは、若年層からの勝利至上主義、特定競技への偏りなどに拍車を掛けてしまう可能性もある。長崎はソフトボール強豪県として知られているが、メジャー競技と比べれば、現状でも部員数が多いとは言い難い。ある関係者は「競技人口やチーム数の減少を心配している」と強い懸念を示した。

全国の中体連加盟人数の推移

◎長崎県内の声 中学校教諭の30代男性 謝礼の発生に違和感

 部活の指導に魅力を感じて体育教師になった。仮に休日の部活を外部に任せていいとなっても、今まで通りの形で自分が見たい。
 時間的な余裕がある土日だからこそ見られる生徒の表情があり、特に重要な練習は放課後ではなく、フレッシュな土日にした方が身になる。私自身も中高生のころはこうした日々を経て先生と信頼関係をつくり「あんな先生になりたい」と教師に憧れた。今回の働き方改革で生徒との関係が薄くなってしまわないか、部活の良さが失われないかと心配になる。
 同じような考えの同僚は多いはず。国は「兼職・兼業届け」を出せば、教員も土日の部活を見られるような配慮を考えているが、大前提に中学校は義務教育。教えを受ける機会が無償で与えられるはずなのに、生徒に経済的な負担が発生して、もしその謝礼を自分が受け取るということになれば強い違和感を覚える。
 別の視点で見れば、子どもの健康を守るために文科省は週2日以上の部活休養日を設けるよう指針を出している。これを徹底できれば働き方改革につながるのではないか。うちでは平日と休日に1日ずつ休養日を設けている。
 とはいえ、部活を見たくないのに顧問を押しつけられている人が一定いるのは問題。子どもの数は減っているので、学校や部活の数を減らして、教員1人当たりの負担を調整できればと思うが。


© 株式会社長崎新聞社