「どれだけ税金がむしり取られるかわからない」専門家が警鐘鳴らすも…大阪IR国に認定申請(中)

カジノを含むIR=統合型リゾート施設の誘致に向けて、大阪府は「区域整備計画」を国に申請し、受理された。計画が認定されれば、2029年秋以降の開業を目指し「ゴミの島」夢洲で工事が着工する。(新聞うずみ火 矢野宏、栗原佳子)

夢洲IRのイメージ図(府・市説明会資料から)

市議会最終日の3月29日、区域整備計画案は可決した。採決を前に維新の市議が賛成の意見を述べ、自民、共産の市議が反対の討論をした。山本長助市議(自民)は「大阪市はIR事業者を特別優遇し、言いなりになっている。夢洲に土壌汚染があることは歴代市長なら知っているのにIR誘致を進めた。大阪こそカジノ依存症だ」と批判。川嶋広稔市議(自民)も「基本協定書は明らかにIR事業者に有利になっている。新たな問題が生じ、撤退を『見極める』と言われるたびIR事業者に撤退されないよう要求を飲まざるをえなくなり、大阪市として新たな債務負担行為の予算などを計上せざるを得ない」と警鐘を鳴らした。

債務負担行為とは後年度に自治体が財政負担=支出を行うことをあらかじめ予算で約束すること。市は22年度予算案に土地課題対策費788億円を債務負担行為として計上、基本協定書では、この債務負担行為の議決も撤退条件に盛り込まれていた。つまり議決しなければ、撤退するぞと。

「夢洲の基盤整備費がどこまで膨れ上がるかわからない」と危惧するのは、立命館大の森裕之教授(地方財政論)だ。

夢洲はごみの島。土壌改良費は青天井

基本協定書を精査した森さんは「まるでハゲタカファンドと結ぶようなもの。どれだけ税金がむしり取られるかわからない。常識さえあれば絶対に結ばない」と語気を強める。

森さんが特に問題視するのも、この債務負担行為だ。

参考記事:2025年大阪・関西万博まで3年半 夢洲は今…夢よりも膨らむ負担

「大阪IR株式会社は土地課題対策を大阪市の代わりに実施し、その費用負担を大阪市が約束することになります。同社が関連企業などに発注する際は随意契約で、公金で負担されるなら高く発注する可能性が高い。夢洲整備は市にとって史上最大の財政リスク。ツケは公共サービスや公共事業の削減で現れるでしょう」

「大阪市にとって史上最大の財政リスク」と話す立命館大教授の森さん=4月15日、大阪市茨木市

土地課題対策費788億円は地中障害物撤去、土壌汚染対策、液状化対策が対象。この額で収まるはずがなく、昨年12月の市の大規模事業リスク管理会議では、万博・IRのための「夢洲造成費用」を21年度以降、2482億円と試算した。ここには地盤沈下対策費は含まれていない。

夢洲は軟弱地盤で、事業者は「洪積層まで沈下するきわめてまれな地盤条件」「地盤沈下に加え液状化が生じた場合は技術的にも未知」と指摘。未知の領域に踏み込む地盤沈下対策費も、基本協定書では大阪市の負担とされている。

参考記事:「大阪市は史上最大の財政リスクを抱える」大阪IR国に認定申請(上)

このほか、万博会場の建設費が1250億円から1850億円に増え、大阪メトロ中央線の新駅を夢洲に設置するための延伸工事費が当初見込みから129億円の増額。夢洲への交通アクセスとして整備が進められる阪神高速道路淀川左岸線の2期工事も1000億円追加され、「現時点でわかっているだけでも大阪市の財政負担は3000億円程度。さらに増えるでしょう」(続く)

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