感謝動画

 〈もらった馬の口を覗(のぞ)くな〉という海外のことわざがある。馬の口の中を見ると、歯の本数やすり減り具合で年齢が分かる。つまり、プレゼントのあら探しや品定めはよくない、贈り物にはケチをつけるな-と戒める言葉だ▲この例えを真っ先に思いついたのは適切なのか、と迷い迷い書いている。ロシアの侵攻に対する各国の支援に感謝を表明したウクライナ政府の投稿動画、字幕で表示された「友人」のリストに「JAPAN」がない、と一時、波紋が広がった一件▲防弾チョッキとヘルメットでは戦えない、と日本の「支援」に落胆したのだろうか。しかし、喜んでもらえなかったか、うちにお礼はないのか、と問い直して、付け足しのように「ありがとう」と言われた経過には、ある種の違和感が消えない▲お礼や感謝を期待して差し伸べる支援の手など底が知れている、とも思う。先方は非常時のさなかでもある。かと言って個人同士の贈答と外交を同列に論じるわけにもいかないし…▲と、考えは一向にまとまらず、釈然としない思いは続く。ただし、リストの国々が「存分に戦え」と兵器や武器を差し出すこの状況が、極めて異様で不幸な事態であることも胸に刻んでおきたい▲それもこれもたった一人が引き起こしたこと-と、あの顔がまた浮かぶ。(智)


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