平和を「選ぶ」

 〈退屈きわまりないのが 平和〉と、その詩は始まる。19歳のとき終戦を迎えた詩人、茨木のり子さんの「それを選んだ」という一編は、平和を保つことの難しさをつづる。〈単調な単調なあけくれが 平和/生き方をそれぞれ工夫しなければならないのが 平和〉…▲そのありがたみを、私たちはつい忘れがち。〈フレッシュに持ち続けてゆくのは 難しい〉と詩は続き、〈けれど/わたくしたちは/それを/選んだ〉と結ばれる▲退屈なようでも、単調に思えても、平和とは当たり前にあるものではない。〈選んだ〉の一語に、詩人は強い思いを込めたに違いない。ウクライナからの知らせは、それが当たり前ではないことを否(いや)が応(おう)でも突きつける▲戦争の現場は目を覆うようにむごくても、それでも目を凝らす。そんな日々を送る中で一つの問いが頭に浮かぶ人も多いだろう。もしも日本が攻撃され、侵略されたらどうするか?▲戦後日本の平和は、日米同盟の盾のおかげという人がいる。戦争を放棄し、戦力を持たないとする憲法第9条があるからだという人がいる。両論あって、「一つの問い」が膨らむ中で、岸田文雄首相は改憲に「今こそ取り組まねば」と意欲を見せる▲曲がり角に立つ日本国憲法はきょう、施行から75年。「平和を選ぶ」ことの重みが増す。(徹)


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