TikTokでフォロワー50万人の福井大学生が語る「ゼロからイチをつくる面白さ」 横浜出身、三吉康貴さんのバズる力

福井大学で出会った仲間らと起業したインフルエンサーの三吉康貴さん(手前)=福井県福井市中央1丁目の交流スペース「Xスタンド」
起業した仲間とミーティングをする三吉康貴さん=4月27日、福井県福井市中央1丁目の交流スペース「Xスタンド」

 若者に人気の動画投稿アプリTikTok(ティックトック)に2021年3月、福井と東京で遠距離恋愛するカップルのアカウント「越の国から。」が登場した。ビデオ通話やデートを重ねる1分未満の“胸キュン動画”が注目され、わずか3カ月でフォロワーが50万人を超えた。

 「当時はコロナ禍でリアルな人間関係が枯渇してた時期。だからこそ、ビデオ通話でリアル以上に心を通わせる瞬間を切り取った動画にした」。彼氏として動画を送り出した三吉康貴さん(20)=福井大学3年、横浜市出身=には、バズる(広く話題が拡散される)ための明確な狙いがあった。

 三吉さんは高校2年のとき、クラウドファンディングで60万円を集め、水没の危機にひんした南太平洋の島国ツバルに渡航し、首相とも面会した。帰国後は歌手を目指す親友とユーチューブチャンネルを立ち上げ、登録者18万人を達成。親友はメジャーデビューした。

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 20年春に福井大に入学した。「ネットビジネスで食べていける自信があったけど、両親の薦めで高3終盤に進学を決めた。受験勉強は全くしてなかったから、AO入試で間に合う日程が福井大だけだった」

 福井のことを何も知らなかったから検索した。魅力的なものづくりをする中小企業が多いと興味が湧いた。「SNS(交流サイト)を使いこなせば、いい商品は東京を介さなくても売れる」。地方発のビジネスのアイデアが浮かんだ。カップル動画は、ユーチューブだけでは福井の企業にアピールする実績が弱いと考えて始めた。

 福井で出会った仲間と今春、起業した。会社名はMEME(ミーム)=https://meme-sns.com/=。「いいものを届ける力が僕らにはある」。

 福井大学3年のインフルエンサー三吉さんに、SNSで挑戦を重ねた歩みを振り返ってもらった。

 ■焦燥の高1、2

 東京都内の高校にサッカーのスポーツ推薦で入学したけど、交通事故でけがをして退部。サッカーを奪われたら、何もアピールできるものがなくて焦った。

 ツバルを知ったのは、たまたま。環境問題にそんなに関心があったわけじゃなかった。ただ、何の経歴もない自分が嫌で、自力でツバルに行こうと決め、渡航費60万円をクラウドファンディングで集めた。

 当時の高校生には高額な目標。ただサイトに載せても無理なので、ツバルを支援するNPOを突撃訪問して思いを伝え、NPOを通じて環境問題に関心がある人に情報を発信したらお金が集まった。「ゼロからイチをつくる面白さ」を知った初めての成功体験。

 帰国後、まだまだすごい高校生がいると気付いた。貴重な経験はしたけど、他者に還元できるスキルがないと痛感した。

 ■高3はユーチューブ

 塾で知り合った友人が歌が上手で、夢はアーティストと言うから、2人でユーチューブを始めた。半年間でチャンネル登録18万人は偶然じゃない。人気の動画を見てWHY(なぜ)をとことん追求したから。

 分かったのは、きれいな映像、音声を流してもだめということ。ユーチューブは素人のためのプラットホームだから、歌がうまい友達の家に遊びに行って部屋で動画を撮ってる感じにした。大事なのは親近感と共感。めっちゃ歌がうまい高校生見つけた、と盛り上がってもらう感じ。

 ■大学で起業

 ユーチューブ、TikTokで実績を重ねて企業とのタイアップも増え、一般のサラリーマンの倍以上稼げるようになったけど、お金だけでは幸福感は全くなかった。自分がインフルエンサーとして稼ぐより、裏方になってもゼロからイチをつくるビジネスの方が面白い。好きな仲間と好きなことを、好きなだけやる会社だったら、きっと幸せになれる。

 今年は大学を休学して起業に集中。福井と東京で半々の割合で過ごしている。東京―福井間は3時間半かかるけど、身動き取れない満員電車に30分乗るよりも、パソコンに向き合える新幹線の方が自分にとっては合理的。

 福井での起業も合理的だから。地方の企業の社会性のある事業とインフルエンサーは、実はつなぎやすい。インフルエンサーは社会的に意義があるテーマはイメージアップになるので無報酬でもやる。これまで培ったSNSマーケティングの経験、インフルエンサーとの人脈を武器に、福井の企業のいい商品を、まだ届いていない場所に適切に届けることが、やるべき仕事の本質。

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 つい最近まで子どもだった僕らの話を真剣に聞いてくれる大人が、福井には大勢いる。立場や年齢は関係なく、自分と相手は違うという前提からお互いを認められる人が「大人」だと感じる。自分の話や不満、文句ばかりのおじさんにはあこがれないし、大人だと思わない。

 

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