トヨタ8号車をリタイアに追い込んだ「絶望的な」ハイブリッドトラブル。赤旗中に発見も解決できず/WEC第2戦スパ

 5月7日に行われたWEC世界耐久選手権第2戦スパ6時間レースの決勝序盤、8号車トヨタGR010ハイブリッドに発生したハイブリッドシステムのトラブルについて、トヨタGAZOO Racingのテクニカル・ディレクターであるパスカル・バセロンがレース直後に状況を説明。チームは赤旗中断中のグリッド上で不具合を認識し対応にあたったが、最終的にはそれを解決することができず、リタイアに追い込まれたという。

 レース開始35分のところでトヨタ8号車をドライブするセバスチャン・ブエミがトップに浮上。その後、最初のピットインを終え、レース開始から1時間が経過した直後、LMP2車両のクラッシュのためセーフティカーが導入された。続いてこのレース最初の赤旗が提示されると、ブエミはホームストレート上の赤旗ラインでマシンを止めた。

 異変は、セーフティカー先導でレースが再開される際に起きた。セーフティカーがグリッドを離れても、車列の先頭にいたブエミはすぐにスタートを切ることができなかったのだ。

 ようやく動き出した後も、コース上で2度停止し、最終的にブエミはハイブリッドシステムの「絶望的なエラーの発生」を確認し、コース脇でマシンを降りた。

 バセロンによれば、赤旗中にマシンをグリッドに置いた状態でチームはこの問題を発見し、対処を開始したという。

「赤旗中、ハイブリッドシステムが正しく再起動することはなかった」とバセロン。

「だから、車列から再スタートするのに苦労するであろうことは分かっていたし、深刻な問題が生じていることも分かっていた」

「それを軽減しようとトライしたが、最終的にそれは不可能だった。これは明らかに深刻な問題であり、我々がこれほど絶望的なハイブリッドの問題を抱えたのは初めてだと思う」

1度目の赤旗中、ホームストレート上に停止するマシンたち。ここからのリスタートで、先頭のトヨタ8号車に異変が発生した

 バセロンによれば、ブエミは正規の手順とされるパワー・サイクル(システムの再起動)を用いて問題を解決しようとしていたという。

「我々はいつも、アラームを解除するためにシステムをリセットする。システムはアラーム状態となっているが、あるものは本物のアラーム、あるものは保護のためのアラームとなっている」

「システムが回復するかどうかを確認するために、我々は常にパワー・サイクルを行う。だが最終的には、今回は救いようのないトラブルだった。それが実際に何であるかは、まだ分かっていない」

 バセロンによると、ブエミはホームストレート上で最初のパワー・サイクルを試みたが失敗し、リスタートが著しく遅れたという。

 その後、8号車はケメル・ストレートで車両をコース端に寄せたところで2度目のパワー・サイクルを行い、さらにターン12手前でマシンを停止させて3度目のパワー・サイクルを試みたが、リタイアを迎えた。

■雨でLMP2が総合トップに立ったことへの、トヨタの見解

 このトラブルの発生前、ブエミはポールポジションスタートだった708号車グリッケンハウス007 LMHのオリビエ・プラをオーバーテイクし、レースをリードしていた。

 プラは当初、2台のトヨタを抑えていたが、その後タイヤに苦しみ始め、ブエミと7号車マイク・コンウェイの先行を許し、トヨタがワン・ツーを形成していた。

「グリッケンハウスは、ドライコンディションでのタイヤの安定性にやや苦しんでいるようだ」とバセロン。

「彼らは数周のうちは我々より速いが、タイヤの安定性には苦労している」

 2回目の赤旗の前に、7号車は総合トップをLMP2クラスのWRT31号車ロビン・フラインスに譲り、路面が乾くまで再び31号車を捉えることはでなかった。また、この雨の激しいコンディションでは、アルピーヌ・エルフ・チームの36号車アルピーヌA480・ギブソンと、グリッケンハウス708号車もトヨタに近い位置にいた。

「通常、車重が軽く、ダウンフォースが大きく、エンジンパワーが小さいクルマは、ウエット路面では速く走れるものと考えられている」とバセロン。

「だから、一時はLMP2が我々よりも速かった。すべては論理的だ。彼らはダウンフォースがあり、エンジンパワーが少ない、軽量なクルマだ」

「雨でグリップが限られているから、エンジンパワーを使うことはできない。だから、ダウンフォースに価値があるのだ」

一時は総合トップを走り、最終的には総合3位でフィニッシュしたLMP2クラスのWRT31号車

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