デフ・レパード『Retro Active』解説:過去の楽曲で未来を切り開いたアルバム

1993年に発売されたデフ・レパードの『Retro Active』はそのタイトルが示唆する通り、レア音源や入手困難な秘蔵音源に、数曲の未発表曲を加えたコンピレーション・アルバムだ。

その知名度は『Pyromania (炎のターゲット) 』や『Hysteria』といった圧倒的な知名度を誇るオリジナル・アルバムには劣るものの、バンドのキャリアに勢いを取り戻した同作の功績は評価されるべきである。[(https://www.udiscovermusic.jp/stories/brian-may-def-leppard-rock-hall-of-fame-2019)

3部作の後の1枚

ヨークシャー出身のデフ・レパードは、通算5作目の猛烈なアルバム『Adrenalize』に続く作品として1993年10月5日に『Retro Active』を発表。前作『Adrenalize』は、ファンから根強い人気を誇る「Let’s Get Rocked」や「Make Love Like A Man」などを収録しマルチ・プラチナに認定された名作となったが、このアルバムは結成メンバーであり友人であるスティーヴ・クラークの死を乗り越えようとグループが苦悩する中で少しずつ纏められた作品だった。

そして、亡き友の後任に元ディオ/ホワイトスネイクの名ギタリスト、ヴィヴィアン・キャンベルを起用し、彼らは『Adrenalize』のプロモーションを兼ねたワールド・ツアーに乗り出した。ヴォーカルのジョー・エリオットがレア音源と新曲を組み合わせたアルバムをリリースしようと思い立ったのは、その期間でのことだった。これは特別なファン・サービスでもあり、クラークの死からバンドが立ち直るためのプロジェクトでもあったのだ。

1993年の前半、バンドはアーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『ラスト・アクション・ヒーロー』の製作陣からサウンドトラックに使用する新曲の依頼を受ける。それにより、エリオットが『Retro Active』と名付けた同プロジェクトは具体性を増していくことになった。

コンサート・ツアー中だったこともあり、レパードは1992年に発表されたB面曲「Two Steps Behind」のアコースティック・ヴァージョンを提供。これに指揮者のマイケル・ケイメンが繊細なストリングス・アレンジを施したことで、同曲はグループ屈指の壮大なバラードに生まれ変わった。

今までと違った制作方法

これをきっかけにデフ・レパードは、ニュー・アルバムに収録する楽曲を集め始めた。その中で、「She’s Too Tough」 (『Adrenalize』の日本盤CDにもボーナス・トラックとして収録) やフィル・コリン作の「Miss You In A Heartbeat」といったレアなB面曲を収めるだけでなく、既存曲を再編集したり未発表曲を一から再録音するといったアイデアが生まれていった。

特にデフ・レパードの面々は『Hysteria』の時期に制作した2曲に的を絞り、これを納得のいくものに仕上げた。少しずつボルテージが高まるパワフルな1曲「Fractured Love」と重苦しく挑戦的なロック・ナンバー「Desert Song」の2曲は実際、バンドの代表曲にも決して劣らぬ出来栄えだ。だがその制作は、彼らには珍しく急ピッチで進められたという。エリオットは後にDefLeppard.comでこう明かしている。

「レコーディングの大半はダブリン (同地にある個人スタジオのジョーズ・ガレージ) で9日間のうちに済ませたんだ。朝の9時に日本へのフライトがあった日も、8時20分までスタジオにいたよ。“Fractured Love”のイントロを徹夜で作っていたんだ。フライトにはなんとか間に合ったよ!」

こうした制作の進め方は、丹念なスタジオ作業で時間をかけて制作した『Hysteria』や『Adrenalize』の真逆を行くものだった。それでも、バンドの面々はその新しいやり方で、過去のカタログに埋もれた楽曲の再録や発掘を続けた。

もともとシングル「Make Love Like A Man」のB面曲であった「She’s Too Tough」では、リミックスを施すとともにスネア・ドラムを新たに録音。1987年発表の「Ride Into The Sun」は、モット・ザ・フープルのイアン・ハンターによるピアノのイントロを加えた新たなヴァージョンで蘇った。スウィートの「Action」の激しいカヴァーは、後のカヴァー・アルバム『Yeah!』へと繋がる1曲になっている。

商業的成功と泥臭いサウンドへの回帰

ワールド・ツアーが続く中、バンドはその合間を縫って凄まじいペースで残りのスタジオ作業を完了。こうして『Retro Active』は1993年8月に完成し、その2ヶ月後にリリースされた。

その頃、「Two Steps Behind」のアコースティック・ヴァージョンは米ビルボード・ホット100チャートの12位まで上昇。『Retro Active』自体もそれに続き、アメリカではリリースから3ヶ月足らずでプラチナ・ディスクに認定され、英米両国のチャートでトップ10入りするヒットを記録した。

セールス面で成功を収めただけでなく、『Retro Active』はバンドに再び活気をもたらした。ベースのリック・サヴェージが「泥臭いサウンドへの回帰」と表現するように、デフ・レパードはこれを機に当時の流行の変化を捉え、次なるスタジオ・アルバム『Slang』ではシンプルで人間味のあるサウンドを目指していくことになる。ジョー・エリオットは次のように回想する。

「本格的に (『Retro Active』の) 制作を始めたのは1993年の5月で、8月にはアルバムが完成していた。その考え方のまま次のアルバムを作りたいと思っていた。1992年の頭と比べて、俺たちの物の見方は大きく変わったんだ。まるで別の生き物みたいだよ!」

Written By Tim Peacock

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**デフ・レパード『Retro Active』
**1993年10月5日発売

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