映像作品としての説得力を出せる形に
――『一騎当千』は原作が2000年から、アニメ作品も2003年から何度も映像化されている作品です。久城(りおん)監督も以前にOVA『一騎当千 集鍔闘士血風録(以下、血風録)』を監督されていて、『真・一騎当千(以下、真)』で久々に『一騎当千』シリーズに監督として帰ってこられた形ですが、今作を監督されることになった経緯を伺えますか。
久城(りおん):
私自身も監督依頼が来ることは意外でした。新作は別の方が監督されるのかなと思っていたので、ビックリしています。
――『一騎当千』との縁が巡ってきたということなんですね。
久城:
そうですね。またできることになったのは嬉しいです。
――『一騎当千』シリーズは永く愛されている歴史もある作品ですが、改めて監督されることにプレッシャーはなかったですか。
久城:
プレッシャーだけでいうとタイトルに『真(シン)』がつくことにプレッシャーがありました(笑)。
――庵野秀明監督の『シン』があるから。
久城:
そうです(笑)。私もお客さんとして『一騎当千』を観ていた作品なので、『血風録』の話が来た時にもビックリしましたね。そこから何度も間を空けつつアニメ化しているシリーズなので、ファン目線で言うともっと短いスパンでアニメを観たいなと思っています。そこは、スタッフ集めなどいろいろ制作環境を整える必要がありますから簡単にもっとアニメ化してくださいと言うのは難しいですけどね。
――元々ファンとして作品を観られていたということですが、『一騎当千』シリーズに対してはどういったイメージを持たれていましたか。
久城:
美少女バトルモノです。その印象は今も変わらないですし、監督する際にもその点は徹しています。
――『真』のシリーズ構成をされている本田(雅也)さんは『一騎当千XTREME XECUTOR』や前作『一騎当千 Western Wolves(以下、WW)』なども脚本を書かれています。脚本をつくられる際に改めて本シリーズをこうしようなどお話しされたことはあったのでしょうか。
久城:
『真』になったからこうしようという話はしていません。今作で『真』と付いていますが、物語は前作『WW』から続いています。本田さんは前作もシリーズ構成されていたこともあって原作を熟知されているので、映像化するのに最適な形で構成していただいていきました。アニメにするにあたって漫画とは変わっている部分もありますが、映像作品としての説得力を出せる形にしました。
――メディアが違うと同じことをやっても逆に混乱してしまうこともあるので、そこは大事な部分になりますよね。
久城:
そうですね。
――塩崎(雄二)先生とは今回のアニメ化に際して、リクエストなどあったのでしょうか。
久城:
メディアが違うと見せ方が変わるということは塩崎先生も熟知されているので、「やりやすい形で進めてください。」と言っていただけています。もちろん構成や脚本など確認はしていただいておりますが、基本任せていただけていて、分からないことが出てきた際に答えていただくという形で進めています。
――それも長年アニメ制作をされてきた中で信頼関係ができているからこそですね。
久城:
そうですね。現場を支えているスタッフと塩崎先生の中で出来ている信頼関係に助けていただきました。
――そこは久城監督にも信頼があるからです。でないともう一度監督してくださいとはならないですから。
久城:
そうだと嬉しいですね。
――物語を構成する中で気を付けられたことなどあったのでしょうか。
久城:
『真』は原作が連載中の作品なので、制作に入るにあたってまず今作の着地をどこにするかを考えて物語を構成しました。着地する部分を決め構成を進めていくと尺がパンパンになってしまうなということに気づきました。なので、尺を心配しながらシナリオを書いていただいた覚えがありますね。1話目は私以外のみんなに「これは絶対入らないよ。」と言われていたので、編集で綺麗に収まってみんな喜んでいましたね。
――物語を入れるために調整しているということは感じなかったのでさすがの手腕ですね。
久城:
ありがとうございます。物語の面で言うと『WW』で孫策(伯符)は東北に行き、『真』で最初に出てくるのが孫権(仲謀)になるので、リセットをかけることができたんです。なので、孫策は一度忘れて孫権の視点にという意識を持ちました。
『一騎当千』を監督した中では一番新入り
――『血風録』は完全オリジナルで『真』は原作のアニメ化になりますが、監督する際に違いはあるのでしょうか。
久城:
抑える場所が違う感じです。『血風録』は倉田英之さんに各キャラクターの性格は抑えた脚本を書いていただいて、今作はこれで行きましょうという形でした。『真』は原作の物語があるので、もととなる物語をどうアニメにするかという形で脚本など作っていった形になります。
――オリジナルであれば世界観が共通していればという形ですが、原作にある物語だとより外してはいけないポイントがありますから。それを三話でまとめるというのもなかなか大変来変な作業ですね。
久城:
そこは本田さんが頑張ってくれました。特に今作は孫権でスタートし、孫策にバトンタッチし、さらに新たなバトンタッチをしてと、物語の中心となるキャラクターも変わるので大変だったと思います。
――確かに、話数ごとに中心となるキャラが変わっていっていました。
久城:
フューチャーするキャラを変えていかないと縦軸が成立しなかったんです。
――このコロナ禍で直接会っての打合せが難しい中、どうやって構成や世界観を共有されていったのでしょうか。
久城:
対策に気を付けながら可能な範囲で対面の打合せもしましたが、そこもみんなが頑張ってくれたから成しえたことですね。特に大変だったのはアフレコだったと思います。
――『一騎当千』はキャラクターが多い作品ですから人数制限がある中でのアフレコは大変ですね。キャストのみなさんも今までの作品に参加されている方も多く、作品を熟知されている方も多いと思います。『真』が始まるということでお話しされたことなどあったのでしょうか。
久城:
『WW』の後のお話であるということはお話ししました。私が『一騎当千』を監督した中では一番新入りで、わかっていない部分も多い監督だと思っています。今まで作品に出演されてきた皆さんの方が自身の演じるキャラクターについて深く知っていらっしゃるので、基本はお任せしました。新キャラクターを演じていただく方には、ほかのキャラとのバランスを取りながら演出をさせていただきました。
――信頼をされてお任されたということですね。
久城:
とはいえ、孫権を演じた大橋(彩香)さんは大変だったと思います。第一話では中心のキャラクターだったので、「孫権は主人公の妹じゃなかったの」と思われていたんじゃないかな。
――そうかもしれませんね。第一話は主人公なので作品を引っ張ってほしいということなど大橋さんとお話しされたのでしょうか。
久城:
第一話でフューチャーされているのは孫権であることは間違いないので、そのことはお伝えしました。大橋さん自身も元々その自覚はあったみたいです。ただ、孫権は基本的に成り行きに流されているキャラクターなので、引っ張るという感覚ではなかったと思います。
オーソドックスに戻したイメージ
――『一騎当千』はアクションも魅力的な作品です。アクションについてはどのような点に気を配り演出されたのでしょうか。
久城:
バトルの見せ方・テンポは気にしました。物語を見せるためとバトルを単純に短くしてしまうと淡白になってしまうので、バランスは確認にしながら進めました。私はアクションで大切なのはメリハリだと思っています。速い・速い・速いだけでは観ている人がついてこられなくなってしまいます。また、『一騎当千』の特徴でもあるパンチラとかも見えないですから(笑)。そこはメリハリを利かせて、止まるときはきちんと止まる、動くときは動くという感じにしています。私個人の感覚になりますが『真』ではよりオーソドックスに戻したイメージです。
――激しい動きだけでは逆に緊張感が出なくなってしまいますからね。
久城:
『血風録』の時に倉田さんから竜の力を使っていても空を飛ばないでほしいと言われたので、その名残もあると思います。原作でもそういう描き方をされていて、基本は打撃・剣撃のバトルで飛んでビームを放つということはない作品ですから。
――肉弾戦だからこその重量感がなくならないようにということですね。
久城:
はい。
――それでも、あんな服の破れ方しないだろうと個人的には思ってしまう部分も個人的には。それを言ってしまうと原作否定になってしまうことになりますけど(笑)。
久城:
逆です、破れるモノなんです(笑)。
――そうなんですね(笑)。
久城:
はい。
――アクションシーンに上手く馴染んでいるので過度にエロく見えないというのも不思議だなと思いました。
久城:
彼らは心情・信念があって戦っているからそう感じられたんだと思います。
――恥じらいとかに気を配っている状況じゃないと。
久城:
そうです。それが『一騎当千』らしいんじゃないかと考えています。
――一番の新人ですと言いながら、これだけ作品を熟慮して制作されているのは素晴らしいです。今回のアニメを観るのがさらに楽しみになりました。
久城:
ありがとうございます。今までずっと見ていただいている方は今作も楽しんでいただける作品になっていると思います。『真・一騎当千』で新しく『一騎当千』シリーズに入ってこられる方にも入ってきやすい作品になっているので、ぜひ多くの方に観ていただければと思います。
©2021 塩崎雄二・少年画報社/真・一騎当千パートナーズ