一貫して革新的で進歩的な姿勢を貫いてきたザ・ルーツ(The Roots)は、1990年代初頭からヒップホップ界で無視できない存在となってきた。ブラック・ソートを前面に出し、クエストラヴの卓越したプロデュース能力に支えられたこのグループは、今の時代でもヒップホップ界のほかのアーティストとは一線を画しており、驚くほどの叙情性、素晴らしいライヴ・パフォーマンス、完璧な音楽的な技量で知られるヒップホップ界きってのハードワーカーだ。
そんな彼らが、『Rising Down』では過去の作品から一転してダークなアルバムを作り上げている。怒り、フラストレーション、貧困、地球温暖化をテーマにしたこのアルバムは、社会の病巣を鋭くえぐり出す社会的・政治的メッセージを表現していた。[(https://www.udiscovermusic.jp/stories/songs-bringing-conscious-hip-hop-back)
2008年4月28日にリリースされた『Rising Down』は、ウィリアム・T・フォルマンの2003年の著書『Rising Up And Rising Down: Some Thoughts On Violence, Freedom And Urgent Means』にちなんだアルバム・タイトルになっている。
ザ・ルーツが本の題名にちなんだタイトルをアルバムにつけるのは、『Things Fall Apart』(1999) と『Phrenology』(2002) に続き、これが3回目となった。2006年に発売された前作『Game Theory』で打ち出された雰囲気を再び再現した『Rising Down』は、激しい言い争いの声で幕を開ける。この言い争いは、1994年にブラック・ソートとクエストラヴが契約先のレコード会社と交わしたものだった。
揺るぎない力強さ
このアルバムには多くのゲストが参加している。たとえば元ザ・ルーツのマリク・B、やはりフィリー・シーンで活躍しているダイス・ロウやピーディ・クラック、モス・デフ (現ヤシーン・ベイ) 、タリブ・クウェリ、コモン、サイゴン、ポーン、スタイルズ・P、ウェイルといった具合だ。とはいえそうしたゲストに囲まれながら最も輝いているのはやはりブラック・ソートだった。
彼は、非常に説得力があり、洞察力に富んだ歌詞を揺るぎない力強さで語っており、このアルバムのタイトル曲では、偏執的なビートに乗せて次のような歌詞が歌われる。
Between the greenhouse gases, and earth spinnin’ off its axis
Got Mother Nature doin’ backflips
The natural disasters; it’s like 80 degrees in Alaska
You in trouble if you not an Onassis
温室効果ガスの中、地球が1回転するたびに
母なる自然が逆上する
自然災害 アラスカの気温はもう摂氏27度
オナシスみたいな大富豪でなければ厄介な目にあう
その後、モス・デフがヴァースで大活躍することになるが、それでもソートは絶好調だ。彼はこのアルバムの全体で最高のパフォーマンスを繰り広げており、「75 Bars (Black’s Reconstruction) 」でも、ソートの才能は存分に発揮されている。
またほかの曲に目を向けると、「The Show」ではコモンが1990年代のピーク時の活躍ぶりを自ら表現し、ツアーの燃え尽き症候群について語っている。
誰よりも苦しんでいる人たちの声を代弁する
『Rising Down』で新たな方向性を打ち出したザ・ルーツだが、彼らを有名にしたジャム・セッションや即興演奏のモードを完全に捨てたわけではなかった。このアルバムのファースト・シングルである「Rising Up」はインスピレーションにあふれた曲で、クリセット・ミッシェルのシルキーなヴォーカルとウェイルをフィーチャーしている。
魅力的なエネルギーに満ちたこの曲は、「一日中同じ曲」を流し続けるラジオ局の単調さをテーマとし、ザ・ルーツのベスト・ソングのひとつになった。
『Rising Down』は、ザ・ルーツの数十年にわたる膨大なディスコグラフィーの中で埋もれがちになっている。とはいえ疑う余地なく、このアルバムは音楽界でとりわけ高い評価を得ているグループが出した素晴らしい芸術作品のひとつである。
激動の時代に最も苦しんでいる人々の声を代弁するバンドの傑作『Rising Down』は、さまざまなメッセージを含んでいた。そうしたメッセージは、今も古びていないのだ。
Written By Rashad Grove
___
ザ・ルーツ『Rising Down』
2008年4月28日発売