JR東、東急、京急が3社競演 プロジェクト目白押しの羽田空港鉄道アクセス 工事着手などに向け準備着々【コラム】 

羽田空港アクセス線事業区間位置図(画像:JR東日本)

3年ぶりで移動環境に制限のなかった2022年のゴールデンウィーク(GW)、各地の駅や空港、観光地などは、にぎわいを取り戻しました。代表例といえるのが、東京の空の表玄関・羽田空港。連休初日の4月29日は、出発客が1日10万人に迫り(日本航空と全日本空輸の国内線単純合計)、ほぼコロナ前の状況に戻ったとの見方も示されました。

羽田空港の復活とともにクローズアップされるのが、空港アクセスの改善です。羽田の新しい鉄道アクセス(鉄道プロジェクト)で方向性が固まっているのは「羽田空港アクセス線(JR東日本)」、「新空港線(東急)」、「羽田空港国内線ターミナル引上線新設(京急)」の3件。

工事着手(起工式)など具体的な動きはこれからですが、準備は進んでいるようです。ここでは公表済みの情報から、鉄道ファンの皆さんに関心を持っていただけそうな話題をピックアップ。あわせて、GW直前に空港隣接地で開かれた「羽田スマートシティEXPO2022春」をご紹介します。

2021年1月に国が認可(JR東日本の羽田空港アクセス線)

首都・東京の物流拠点「東京貨物ターミナル駅」。現状、旅客列車の設定はないものの、名目上はJR貨物とJR東日本の共同駅です。全体スペースは東京ドーム15個分の約75ヘクタールもあります(写真:タロイモ / PIXTA)

国土交通省が2021年1月、羽田空港新駅(仮称)と東京貨物ターミナル(東タ)をつなぐ約5キロの新線区間を対象に事業認可したのが、JR東日本の羽田空港アクセス線(仮称)です。

羽田空港アクセス線の路線イメージ。空港とJR東京駅を直結する東山手ルート以外に、西山手、臨海部の両ルートも図示されます(資料:国交省交通政策審議会の公表資料)

路線イメージを再掲すれば、羽田からの鉄道ルートは、途中で3本に枝分かれします。JR東日本は羽田空港新駅―東タ間を「アクセス新線」、枝分かれ後の3本を西側から「西山手ルート」「東山手ルート」「臨海部ルート」と称します。

開業予定は2029年度で、改良区間を含めた総費用は約3000億円。JR東日本は、東京駅から羽田空港までの所要時間を約18分と試算します(いずれも認可時点の数字)。

構造物を避けながら道路や運河の下をトンネルでつらぬく

羽田空港アクセス線の追加情報は、日本鉄道施設協会が2021年10月に主催した「総合技術講演会」から。JR東日本が、「羽田空港アクセス線整備・都心からのダイレクトアクセスを目指して」と題し、新線の施設概要を報告しました。

新線区間は、ほぼ全線が複線トンネル。東タから空港までは、最近の都市地下鉄道建設では定番工法のシールドトンネルで建設します。空港内地下に設ける新駅付近は、地上から掘削する開削工法とします。

線形は用地取得を極力避けるため、公共施設、道路、運河の下部を掘削します。東京都心は既に多くの構造物が建設されているため、道路橋脚、建物基礎などを避けながらルート設定しました。

加圧した空気を吸気して煙の侵入を防ぐ

第1、第2の両ターミナルの中央部地下に建設される空港新駅、当初は深さ40メートル以上、地下7階というかなりの深度に設けられるプランだったようです。しかし、大きなスーツケースを持っての上下移動はなるべく避けたいもの。そこで、もう少し浅い位置に駅を置くこととし、空港の周回道路下に駅を設けることにしました。

シールドトンネルには、万一の火災時などに避難や消防活動に使用する空間を確保。避難空間には、加圧した空気を給気して煙が侵入しないように工夫します。

住民向け説明会も開催

羽田空港アクセス線関係ではもう一つ、紹介が遅れましたが、JR東日本が2021年8月に新線整備事業の環境影響評価書案の住民向け説明会を開催しています。

JR東日本は説明会に先立ち、アクセス新線と東山手ルートをあわせた空港新駅―田町駅付近間について、「環境影響評価書案」を東京都知事に提出しています。住民からは工事方法や運行計画のほか、新駅の有無などについて質問があったそうです。

アクセス新線は、2022年度の工事着手が予定されます。時期は不明ですが、やがて「アクセス線起工」のニュースが発信されることでしょう。

東急が京急に乗り入れる!? 「新空港線の新設」

京急本線から空港線が分岐する京急蒲田駅。2012年までに連続立体交差事業が完成し、3層構造の立体的な駅に生まれ変わりました。1層フロアは駅事務所と改札で、2、3層フロアがホーム。空港線は本線ホーム中央部から分岐するなど、線形を工夫してスペースの制約をカバーします(筆者撮影)

羽田空港の鉄道アクセスには、「新空港線の新設」もあります。通称「蒲蒲線」で、新空港線がつなぐ東急蒲田(東急の正式駅名は蒲田です)と京急蒲田からのごろ合わせ。2000年ごろから構想が出ている、東急多摩川線を延伸して京急空港線に接続させるプロジェクトで、地元の大田区が中心になって旗を振ってきました。

ルートは、東急東横線多摩川(駅名)から多摩川線に直通運転。矢口渡から地下に入り、JR東海道線をくぐって京急蒲田か大鳥居から空港線に乗り入れます。蒲田駅東側には大田区役所がありますが、庁舎地下には鉄道トンネルのスペースが確保済みという〝都市伝説〟もあります。

東急新玉川線を京急蒲田まで伸ばす新空港線の路線イメージ。京急蒲田から先の羽田空港方面は整備方法が未定のため、路線が描かれていません(資料:大田区の令和4年度予算解説資料)

最大の課題は、京急が1435ミリの標準軌、東急が1067ミリの狭軌と線路幅が違う点。実現には、京急の3線軌条化または車輪幅を変えられるフリーゲージトレインの技術開発が必要で、相当なハードルがあります。

「新空港線の整備主体設立及び関連事業で12億円弱を予算化」(大田区)

大田区は2022年度、「新空港線の整備主体設立及び関連事業」として11億8574万8000円を予算化しました。

区の資料には、整備(鉄道建設)手法が記載されます。新空港線は、「都市鉄道等利便増進法」に基づき営業主体(鉄道事業者)と整備主体(第三セクター)に分ける、上下分離方式を採用します。

2005年に施行された都市鉄道等利部増進法(略称はないのでフルネームで書きます)は、既存の鉄道路線をつないだり、大規模駅改良をすることで、文字通り都市鉄道の利便性向上を促進する目的の法令。適用第一号は神奈川東部方面線(相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線)です。

大田区は予算のうち10億円は、事業を円滑に進めるための基金として積立。関連事業では、新空港線の事業内容を区民ら理解にしてもらう広報・啓発活動を実施します。

新空港線の整備意義を大田区民らに知ってもらう啓発活動。写真は地元の「大蒲田祭」に出展したPRブースです(資料:大田区の令和4年度予算解説資料)

羽田空港国内線ターミナル駅に引上線新設(京急)

鉄道プロジェクト最後は、「京急羽田空港国内線ターミナル引上線の新設」。京急の引上線は、空港線終点の国内線ターミナル駅の先に線路を延ばし、到着した電車を留置できるようにします。

京急羽田空港国内線ターミナル駅への引上線新設の事業イメージ。国内線ターミナルから東方向(沖合方面)に線路を延伸して引上線を設けます。資料をみると、JR東日本の羽田空港アクセス線は京急とは直角の北方向から空港に入ることがわかります(資料:「2022冬公共交通フォーラム」での京急の発表資料から)

具体的な動きはこれからですが、引上線が完成すれば列車運行に弾力性が生まれ、航空利用客の利便性向上につながるはすです。

自動運転バスなど未来の交通を発信(「スマートシティEXPO2022春」)

鉄道プロジェクトに続いて、羽田の話題をワンポイント。羽田空港隣接地の「HANEDA INNOVATION CITY(羽田イノベーションシティ)」で、2022年4月22~24日に開かれた「スマートシティEXPO2022春」をご報告します。

羽田イノベーションシティには鉄道事業者でJR東日本、京急、東京モノレールが参画します。スマートシティEXPOでは、鉄道関係イベントはありませんでしたが、ソフトバンクグループのBOLDLY(ボードリー。企業名)が技術開発中の自動運転バスをデモンストレーションするなど、未来の交通が情報発信されました。

「スマートシティEXPO2022春」でデモンストレーション運転されたBOLDLYの自動運転バス(筆者撮影)

記事:上里夏生

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