「高金利通貨トレードで「金利差狙いで中長期保有」が間違いといえるワケ

多くのFX会社が取り扱っている高い利回りの通貨として、トルコリラ、メキシコペソ、南アフリカランドなどがあります。こういった高金利通貨は「金利差狙いの中長期保有が望ましい」といった話を聞くことがあります。しかし、その考え方は「間違い」の可能性があります。

今回は、高金利通貨の取引について説明したいと思います。


「優雅なるスワップ・ポイント生活」のリスク

FXの「特徴」の一つに、利回りの高い外貨での取引し金利差利益を得る(第2回参照)ということがあります。日本は長い間、世界を代表する低金利国となってきただけに、資産運用の醍醐味の一つである利回り追求に渇望した日本の投資家が、FXに期待するということはあるでしょう。

そんな円に比べて相対的に高い外貨の利回りといったことも、2020年3月のいわゆる「コロナ・ショック」を受けて一時はかなり変わりました。世界一の経済大国である米国がゼロ金利政策を採用しただけでなく、世界的にことごとくコロナ対応の金融緩和、利下げに動いたことから「日本では考えられないような高い利回り」といった外貨も少なくなりました。ただそれにしても、相対的に円に比べて外貨の金利は高く、そして世界経済が徐々に「コロナ前」に戻る中で、日本との金利差も以前の状況に戻っていきそうです。

たとえば、FXでかなり多く取引されている比較的金利の高い通貨として、冒頭でも述べたように、トルコリラ、メキシコペソ、南アフリカランドなどがあります。このうち、トルコリラについては、近年暴落を繰り返し、高い利回りの魅力も失せてしまった印象があるので、今回はほかの2通貨について見てみましょう。

中央銀行が金融政策の手段として使用する金利を政策金利と言いますが、2022年4月末現在で、メキシコは6.5%、そして南アフリカは4.25%となっています。ゼロ金利政策の日本と比べると、魅力に感じる可能性があるでしょう。

金利差とは「インカムゲイン」で、基本的には安定的な収入に位置付けられます。そんなインカムゲインが、比較的大幅な金利差によりある程度期待できるなら、FXのもう一つの収益機会である「価格の値上がり益=キャピタルゲイン」は脇において、中長期で保有するといった考え方が出てくるのもわからなくはないでしょう。

例えば、ある資産家トレーダーは、比較的高い金利の通貨ばかり10億円以上といった具合にかなりの金額で購入していました。このため、金利差利益、つまりスワップポイントの収入だけで毎月数百万円規模にも達しました。まさに「優雅なるスワップポイント生活」といっても良かったかもしれません。

想像してみてください。こういった状況なら、相場の値上がりにはほとんど期待する必要はないでしょう。スワップ・ポイントだけで毎月数百万円も入るなら、普通ならそれだけで十分優雅な日々が過ごせそうです。

ただし、その中で気を付けなければならないのは、相場の上昇どころか、逆に相場が大きく下落するリスクです。大幅な相場の下落に伴う損失によって、せっかくの金利差が吹っ飛んでしまう可能性があります。

それどころか、相場の下落次第では、強制的な損切り(ロスカット)に追い込まれ、取引終了となれば、投資した資金がゼロになってしまうリスクもあるわけです。その意味では、「優雅なるスワップポイント生活」の大前提は、最低でも取引が継続している状態、ということになるでしょう。

このように高金利通貨への投資も、せっかくの金利差収益が「キャピタルロス」とも呼ばれる相場の値下がり損で台無しにならないように、下落リスクが限られるかを見極めることが、実は重要になるでしょう。

高金利はインフレの裏返し

相場の値下がりリスクが限られるかを見極めることが肝心なのは、もちろん高金利通貨への投資に限ったことではありません。ただ敢えてそれを高金利通貨への投資について確認するのは、基本的に利回りの高い通貨、高金利通貨ほど相場の値下がりリスクも大きいからです。

経済学の常識からすると、金利が高いということは、高いインフレ率の裏返しであり、その「高いインフレ率」とは、高い物価上昇、すなわち「物(モノ)の価値が高い」ということですから、相対的には通貨価値の下落を意味するものになります。

実際にチャートで確認してみましょう。図表は代表的な高金利通貨の一つであるメキシコペソ/円のチャートですが、2006年には11円を上回って推移していたのが、2022年4月末現在では6円台での推移となっています。約16年の間に、高値がほとんど半値に近いところまで下落したわけです。

【図表】メキシコペソ/円の推移 (2006年~)

(出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成)

これを米ドル/円にたとえると、16年前には150円以上で推移していたのに、今では上がっても80円すら上回れなくなったといった具合でしょうか。そんな米ドル/円には現実的にありえないことが起こっていたのが高金利通貨なのです。

それなのに、はたして「高金利通貨は、キャピタルゲインは期待せず、金利差狙いで中長期保有」ということになるでしょうか。「キャピタルゲインは期待しない」としても、相場の値下がり損、つまり「キャピタル・ロス」はインフレ率の高い物価高の高金利通貨こそ警戒する必要があり、相場下落の程度によっては、せっかくの金利差収入も台無しになるリスクがあるわけです。

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