コロナ後遺症、専門外来に患者が殺到「午前3時までオンライン診療を続けても、数十人は断らざるを得ない」 1年以上苦しみ、今なお治らない記者の記録(3)

ヒラハタクリニックの平畑光一医師=東京都渋谷区

 新型コロナウイルス感染症の後遺症に1年以上苦しむ私の実体験を書いた記事には、予想を上回る反響があった。SNS上でも多く言及してもらい、知り合いからひっきりなしに連絡が来た。

(第1回の記事)https://nordot.app/859257660718088192?c=39546741839462401

(第2回の記事)[(https://nordot.app/864331530836426752)https://nordot.app/864331530836426752?c=39546741839462401

 問い合わせ先として記事の末尾に載せたツイッターのDMには掲載から3カ月たった今もメッセージが届く。当事者から寄せられたものが多く、自身の深刻な病状や境遇を打ち明けるものばかりだった。まるで患者の悲鳴を聞いているよう。経験者としてつらさが分かるだけに、いたたまれない気持ちになった。
 中には、私と似た症状に見舞われているがどんな医療機関にかかればいいのかと質問されたり、近くに診てもらえる病院がないと訴えたりするものもあった。本来なら医療機関で尋ねるような質問が私の元に来るのは、発症時の対処方法など基本的な情報が浸透していない現実を物語っているようだった。
 そこで第3回となる今回は連日多くの後遺症患者を診察しているヒラハタクリニック(東京)の平畑光一医師から詳しく聞いた話をまとめた。続く第4回で、後遺症患者のみなさんの苦境を紹介する。
 後遺症に今も苦しむ私が記事を書き続けることで、孤独感を抱えながら後遺症と闘っている人の助けになることを願っている。(共同通信=秋田紗矢子)

 ▽一部の病院に患者が殺到する現状「社会のゆがみ」

 平畑医師のツイッターには、連日未明までオンライン診療をしている様子がつづられている。後遺症外来を開設する医療機関も以前よりは増えたはずなのに、なぜ平畑医師の下に患者が集中しているのだろうか。現状や、どのような対応が必要なのか聞いた。

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 私は2020年3月ごろから、オンライン診療も含め、後遺症が疑われる3800人以上を診てきた。患者が訴えるだるさは、倦怠感という言葉でひとくくりにできないほどひどい。歩けなくなり、トイレに行くのがやっとという人が大勢いる。それまで元気だった人が突然動けなくなり、いつ治るか分からない。想像を絶する苦痛だと思う。

 患者数も多い。海外の統計などで、感染者の約10%が後遺症になると言われている。国立国際医療研究センターが行った調査では、感染した患者の26%が半年後も後遺症があったとのデータもある。国内感染者の累計は750万人超(5月時点)だから、10%とすれば75万人が後遺症を経験した計算になる。感染者と認定されなかった人も含めると、100万人近い後遺症患者がいる可能性もある。
 新型コロナで陽性になっていなくても、後遺症の症状を訴えるケースは多い。当初は検査体制が不十分で、2020年9月ごろまでに診ていた患者のほとんどがそうだった。抗原検査では、実際に感染していても陽性にならない「偽陰性」の可能性もある。
 検査で陽性になっていない、というのはヒントが一つ足りないだけの話で、症状から後遺症が疑われるのであれば、それを念頭に置いた治療がされるべきだ。検査で陽性でないからコロナではないとか、後遺症にはならないという医者が未だにいるようだが、非科学的な態度だと思う。
 感染力の強いオミクロン株の影響で、オンライン診療を午前3時ごろまで続けても、数十人を断らざるをえない状況が続いている。過去には、診療しきれなかった患者が亡くなっていたと警察から連絡を受けたことがあった。複数の患者の自死を経験した。
 一部の病院に患者が集中する一方で、地元の病院で「後遺症は診られない」と診察を断られて来る人もいまだに後を絶たない。社会の認知も不十分な中、体のエキスパートである医療側が先んじて理解し、サポートしなければならないのに、完全に社会がゆがんでいる。「後遺症外来」を設けている一部の病院だけで診られるような数ではなく、全国の患者が地元で診療を受けられる態勢の整備が不可欠だ。
 後遺症が悪化した結果、強い痛みと倦怠感を伴う筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)になることがある。ひどいケースでは寝たきり状態になる。治療では、そうならないように「だるくなることをしないで」と指導している。
 難しいことかもしれないが、とにかく感染後約2カ月は運動を避け、無理をしない生活を心がけてほしい。その期間は体調不良にどう対処していいのかということを勉強する期間にもなると思う。

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  記者の私も、ヒラハタクリニックや国立精神・神経医療研究センター病院で診療を受けながら、後遺症外来に患者が集中する現状を肌で感じてきた。治療自体は、症状を聞いてもらって効く可能性のある薬を試すというありふれたものだ。それがなぜ多くの病院でかなえられないのか。「社会がゆがんでいる」という平畑医師の言葉が重く響いた。

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