下落リスクが高い高金利通貨、いまの相場が割高か割安かを見極める方法とは?

FXにおける2大収益機会である金利差と価格変動。このうち、前者への期待が大きい高金利通貨のトレードにとって、後者はあまり気にせず「中長期保有が望ましい」といった話をよく聞きますが、キャピタルロスのリスクの観点から「間違い」の可能性があります(第5回参照)。

今回は、高金利通貨のトレードで失敗しないための「循環的な売買」を考えていきたいと思います。


高金利通貨の価格下落リスク

たとえば、米ドル/円なら1米ドル=120円で買い、その後100円まで下落しても、4~5年も待っていると買った水準の120円に近いところまで戻ってくる可能性は十分あります。ただ高金利通貨の場合は、割高な水準で買うと、その後の下落を経て、二度と買った水準まで戻らないということがありうるのです。なぜなら高金利は高いインフレ率の裏返しであり、インフレは物価が高い、つまり「お金より物の価値が高い」状態を指すので、中長期的に通貨価値が下落に向かう可能性が高いからです。

メキシコペソ/円を例に見ていきましょう。図表1の2010年より前に1ペソ=10円以上の水準で買ったとしたら、その後は二度と買った水準まで戻っていないことがわかります。安定的な金利差利益の獲得を目的として、高金利通貨は中長期で保有するといった戦略も、相場の下落リスク次第では失敗する懸念があるわけです。

【図表1】メキシコペソ/円と5年MA (2006年~)

ただ、高金利通貨のFXトレードを否定しているわけではありません。「高金利通貨の買いは、価格変動を気にせず中長期保有で良い」ということが「間違い」ではないかと述べているのです。むしろ逆で、中長期的に価格下落リスクが予想される高金利通貨ほど、投資する上で割安か割高なのかの見極めが重要ということではないかと考えています。

言い換えれば、高金利通貨はせっかくの金利差が吹っ飛んでしまうくらい価格が大きく下落しないような水準で買えばいいのです。すでに「割安」な相場は下がる余地も限られるでしょう。一方、「割高」な相場は、その反動が入ると大きく下がるリスクがありそうです。

ということは、せっかくの金利差を活かし、FX取引で利益を出すためには、高金利通貨のトレードこそ、「割高」「割安」を見極めた上で、割安なところで買い、それを中長期的にいつまでも保有したままでいるのではなく、割高になったらポジションを手仕舞う(売る)ことで利益を確定させる、といった具合の循環的な売買が必要になるでしょう。

だからこそ、一般的な理解とはむしろ逆で、金利差に期待できる高金利通貨のFXトレードの方が、むしろ中長期の観点での相場下落リスクの見極めがより重要である可能性があるということなのです。

中長期の割高or割安の見極め方

それでは「割高」「割安」をどのように見極めるかについて、改めてメキシコペソ/円のチャートを見ながら具体的に検証してみましょう。

【図表1】メキシコペソ/円と5年MA (2006年~)

振り返ってみると、メキシコペソがその後大きく下落に向かったことから、結果的に買ってはいけなかったのは、2008年7月前後や2014年11月前後であり、その逆で買ってよかったのは2012年5月前後、2016年9月前後、2020年4月前後でした。

この図表1の中の赤色のチャートは、メキシコペソ/円の過去5年の平均値、5年MA(移動平均線)です。これを見ると、メキシコペソを買ってはいけなかったのは5年MAを大きく上回って推移していた時、逆に買っても良かったのは5年MAを大きく下回っていた時でした。

ちなみに、図表2はメキシコペソ/円の5年MAからのかい離率にしたものです。グラフが上に伸びるとメキシコペソ「割高」、下に伸びるとメキシコペソ「割安」の意味になります。これを参考にすることで、「割高」「割安」の手掛かりが得られると、金利差利益をキャピタルロスで台無しにするようなことを回避できるでしょう。

【図表2】メキシコペソ/円の5年MAかい離率 (2006年~)

高い金利の外国通貨での取引を行うことは、低金利の国、日本国内では期待できないFXの魅力です。ただそれを「成功」に導くためには、買う水準の吟味、つまり割高か割安かの見極めが不可欠だということを、これまで述べてきました。

俗な言い方になりますが、きれいな花にはトゲがある、うまい話には裏がある。その意味では、高い利回りが魅力の高金利通貨トレードこそ、価格下落といったキャピタル・ロスのリスクの見極めが重要であり、それを気にせず中長期保有が望ましいという考えは「間違い」の可能性があります。そして重要なのは、そんな中長期の価格下落リスク、割高か割安かを見極める方法はあるので、それらを参考にすることが、高金利通貨のトレードには必要だということです。

割高か割安かを見極める方法について、今度は南アフリカランドを例に見てみましょう。図表3は2010年以降の南アランド/円のチャートです。2010年頃までは1ランド=12円以上で推移していたのが、ここ数年は上がっても、もう10円すら超えられなくなっていることがわかるでしょう。

【図表3】南アフリカランド/円の推移 (2010年~)

メキシコペソでも確認しましたが、このように中長期的に通貨の価値が下落するのは、利回り狙いの対象となる高い金利の通貨、言い換えれば「インフレ通貨」の特徴と言えるでしょう。だからこそ、繰り返しにはなりますが、こういった高金利通貨ほど、買う水準の吟味、つまり割高水準での買いを避け、なるべく割安な水準で買う意識が非常に重要となるのです。

南アランドが大きく下落に向かったことから、結果的に「買ってはいけなかった」のは赤丸印、一方買って中長期保有により高い利回りのメリットをしっかり享受できたのは緑丸印のところだったでしょう。次に図表4を元に、5年MAからのかい離率で見ると、赤丸印は基本的に5年MA前後の水準、一方緑丸印は5年MAを3割近く下回った水準でした。

【図表4】南アフリカランド/円の5年MAかい離率 (2010年~)

つまり南アランド/円の場合は、5年MA前後が割高警戒域、一方5年MAを3割近く下回ってくると割安感が強くなると言えそうです。この10年余りで見ると、とくに南アランド/円は5年MAからの割高、割安サインが、比較的きれいにでていたことがわかります。

この5年MAかい離率は、中長期的な割高、割安を判断する分析方法の一つです。必ずしも今回見た南アランドほどきれいなサインとなるわけではありませんが、大まかな目安にはなります。

高金利通貨のトレードは、金利差収益への期待が強いのは当然でしょう。ただこれまで見てきたように、そんな高金利通貨ほど、中長期的には価格下落リスクが大きいのが基本ということがあります。

以上からすると、金利差収益期待の強い高金利通貨トレードこそ、せっかくの金利差利益を台無しにしないように、実は循環的な割安、割高の確認が必要なのかもしれません。

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