<社説>在外国民審査「違憲」 参政権として尊重したい

 海外の日本人有権者が最高裁判所裁判官の国民審査に投票できないのは違憲だと訴えた訴訟で、最高裁大法廷が原告の主張を全面的に認める判決を出した。憲法で保障されている権利が行使できないことは許されない。当然の判決だ。国会は直ちに国民審査法改正に着手しなければならない。この判決を、国民審査が重要な参政権であることを再確認し、より有意義な制度へと見直す機会にしたい。 裁判で国は、国民審査を「民主的統制の方法として例外的、補完的なもの」と位置付け、選挙権と違い不可欠とは言えないと主張した。15人の判事全員一致の判決はこれを退け「国民主権に基づき、憲法に明記された主権者の権能」と明快に判じた。国民審査は選挙、国民投票、地方特別法の住民投票と共に、憲法が保障する参政権の一つだ。約100万人の在外有権者の大切な権利である。国の主張は論外だ。

 立法権・行政権・司法権の三権分立において、最高裁判所は法律や行政行為が違憲かどうかを審査する権限を持つ一方、最高裁の長官は内閣が指名し天皇が任命、14人の判事は内閣が任命する。国民審査には、人事権を持つ内閣に対して最高裁の独立性を担保する役割もある。

 国は、投票用紙に対象裁判官の名前を印刷しなければならないために、衆院選期間中の用紙の送付や回収が技術的に困難だとも主張したが、判決は「やむを得ない事由があるとは到底言えない」と指摘した。総務省が実証実験中のインターネット投票なら世界のどこにいてもできる。この際、在外投票は全てインターネットでいいのではないか。回収・集計が衆院選より遅れてもいいと定めてもいい。

 国会が立法措置を怠っていないとする根拠として、国は国会で議論がないとも主張した。これに対し判決は、憲法改正の国民投票で在外投票を認める法律が2007年に制定されたことなどを挙げて、国会の不作為を批判した。

 国民審査に多くの課題があることは確かだ。昨年10月の審査では全国の罷免率は5~8%にとどまった。1949年以来、延べ190人が審査を受け罷免は一度もない。裁判官になじみが乏しい上に、名前に×印を付ける方式が分かりにくく、また判断するための情報を得られにくいことが理由とされてきた。

 沖縄県は、1972年に罷免率が40%に迫ったことがあり、最近も15%前後と全国一で、国民審査への関心は比較的高い。同時に無効票も約7%と全国の2倍以上もある。

 ○×式に変えるか、消しゴムで消して書き直せるようにするなどの改善を検討してもらいたい。また、裁判官の情報も「審査公報」が各戸配布されているが不十分だ。最高裁のホームページで調べるのも簡単ではない。有権者の判断を助けるようメディアの一層の努力が求められる。

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