株価上昇に繋がる3つの要因、1円の円安で400億円の営業利益差が出る企業も

米国株が調整を続けています。NYダウ平均は、年初から5月25日までに約12%下落、IT・ハイテク関連株の多いナスダック総合指数は約27%下落しました。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が過度なインフレ抑制のため、積極的な金融引締め方針を表明していることなどが主な調整の原因です。

米国株に引きずられて日本株も株価好調とは言い難いものの、日経平均の年初からの下落率は25日時点で7.2%と、米国株に比べると相対的には良いパフォーマンスです。パフォーマンスに差が出ているのは日本企業の業績がしっかりしていることも要因の1つと思われます。本稿では4月末から5月中旬にかけて行われた、3月決算の日本企業の第4四半期の決算発表の概要をお伝えするとともに、その結果を踏まえつつ、今後の注目ポイントなどをご紹介します。


第4四半期決算の概要

3月末決算を採用しており、業績を前年同期と比較可能な1,225社の第4四半期の業績について業種別に筆者が集計したところ、以下の表のとおり全体では8.4%の増収・13.1%の経常減益(※)となりました。経常減益ではあるものの、実はソフトバンクグループ(9984)の2兆円を超える巨額赤字の影響が大きく、それを除けば実質的には増益となっています。
※前期と比較し、企業の利益が減ること

2022年1-3月期の業種別増収額・増収率(単位は百万円)

2022年1-3月期の業種別増益額・増益率(経常利益・単位は百万円)

簡単に業種別に見ていくと大きく以下の傾向が見て取れます。

・「石油・石炭製品」「鉄鋼」「卸売業」など、資源高の恩恵を受けやすい業種が好調
・逆に「電気・ガス業」「陸運業」など、資源高が逆風となる業種は厳しい業績
・「空運業」「小売業」など、コロナ禍でのダメージが大きかった業種に回復の兆し

今後のマーケットへの影響が考えられる要因は?

これまで見てきたように、日本企業の第4四半期決算は業種による違いはあるものの、概ね堅調な状況でした。ここからは今後の日本企業の業績に影響が大きそうなファクターをご紹介します。

まず、筆者が考える業績のプラスになりそうな要因として、「日銀の金融緩和姿勢の維持」「円安進行による輸出企業の利益増とインバウンド増」「新型コロナウイルスによる落ち込みからの本格回復による消費増」などが挙げられます。

それぞれ簡単にご説明します。

日銀の金融緩和姿勢の維持
日銀の黒田総裁は、従来から行っている金融緩和を維持・強化していく姿勢を鮮明にしました。一時は1ドル130円を超えるなど円安が進む中、日銀の緩和姿勢継続に対する批判を一蹴した格好です。日銀の目標は為替レートの変動ではなく、賃金上昇と物価上昇のバランスの取れた2%インフレの達成ですから、目標が達成できていない現状ではそういったスタンスで望むのが当然かと思います。

円安進行による輸出企業の利益増とインバウンド増
日本全体にとって円安はメリットもデメリットもありますが、上場企業の業績という意味ではプラスの要因が大きいと考えています。ご存じの通り、日本で時価総額の大きい上場企業の多くは輸出関連企業です。以下は、海外売上高比率が50%以上ある会社のうち、今期の想定為替レートを公表している時価総額上位10社の想定為替レートを記載した表です。

主な輸出関連企業の今期の想定為替レート

トヨタ自動車(7203)は115円、日本電産(6594)に至っては110円と、今期の想定為替レートを実勢より大幅に円高に見ています。トヨタ自動車では1円の円安で400億円程度、掲載した他の企業も数十億円程度は営業利益が増加する場合が多いようです。これらの保守的な見通しは、業績の上振れ余地として抑えておく必要があります。

さらに、筆者が一層期待できると考えているのが、外国人観光客(インバウンド)の来日です。コロナ前の2019年は年間で約3,200万人が来日し、約4兆8000億円の消費が行われていました。それがコロナの影響で2021年は20万人、1,200億円程度にまで落ち込んでしまいました。

コロナを完全に克服し、再び門戸が開かれれば円安進行もあって多くの方が来日されるでしょう。完全に元通り観光客を誘致できるようになる時期は不透明ながら、そうなれば5兆円規模、またはそれ以上のインパクトがもたらされる可能性があり、関連事業を行っている会社については非常に大きな追い風になるはずです。

(出所)「日本政府観光局(JNTO)」及び観光庁発表からマネックス証券作成

新型コロナウイルスによる落ち込みからの本格回復による消費増

これについては言うまでもないでしょう。我々はこの数年間、いろいろな我慢をして過ごしてきました。特に旅行や人との飲食などは、思うように行うこともできませんでした。コロナの影響が払拭されたら、旅行に行きたいと考えている人は非常に多いと思います。これらの関連消費も非常に盛り上がるでしょう。

ここまで日本企業の業績の追い風になるであろうファクターを見てきました。一方で、「FRBによる金融引締め強化」「上海ロックダウンの影響などによる中国経済の成長鈍化」「ウクライナ問題をきっかけにした東西対立の深刻化」などのネガティブな要素もありますので油断はできません。

ただ、ポジティブ要因としてあげた各項目の関連したビジネスを展開する企業では、業績拡大と株価上昇に高い期待を持ってよいのではと考えています。読者の皆さんの銘柄選びの参考になれば幸いです。

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