「介護離職」をすると自分の老後は破綻する?悲劇にならないために使える制度やサービスでの対策方法

厚生労働省の「雇用動向調査」によると2019年に介護・看護を理由に退職した人は約10万人、そのうち男性は約2万人、女性は8万人です。女性の方が圧倒的に多く、負担が女性に片寄っていることがわかります。

介護離職者の年代を見てみると男性は、50~54歳、女性は60~64歳がもっとも多くなっています。

人それぞれですが、人生の中で、介護は「自分の両親」「配偶者の両親」「配偶者」と、5人の対象者が考えられます。介護は、誰にでも起こる問題の一つかもしれません。

親の面倒は自分がみたいとか、兄弟がいなくて自分しか面倒をみる人がいないこともあるでしょう。その場合、仕事をやめて介護に専念したい気持ちもわかります。しかし、「介護離職」をしてしまうと親子共倒れになってしまう可能性があります。また介護が終わって、気がつくと自分の老後の生活が破綻となりかねません。

今回は、実例をもとに「介護離職」してしまったことで起こりうる悲劇や対策についてお話します。


母親の介護期間に貯蓄はほぼゼロに

実際にあった介護離職の例です。

53歳の独身男性で、貯蓄が1,500万円あったそうです。地方に住む一人暮らしの母親が認知症になっため、介護離職をして、母親の面倒をみることにしました。貯蓄は1,500万円あるので、そのお金を取り崩していけばなんとか、暮らして行けるという計算をしました。

しかし、介護の期間は、いつまで続くのか、まったく予想できません。生命保険文化センターの調査によると、平均的な介護期間は、5年1ヵ月。認知症の場合は、さらに長くなり、認知症の人と家族の会の調査によると平均6~7年、10年以上が3人に1人強というのですから、介護は長期戦で考えた方がいいでしょう。

貯蓄が1,500万円あるし、母親の年金もあり、なんとかなると考えていましたが、介護期間が12年とは、予想していませんでした。母親が亡くなるまでの12年間に、貯蓄はほぼゼロに。もう少し介護の期間が長くなっていたら、親子共倒れになっていたかも知れません。

男性は12年間に介護の大変さを知ったのですが、いつ終わるのかもわからない介護でウツになりかけることもあったそうです。でも、これからは自分1人の暮らしになります。

「介護離職」で、年金の受給額が少ない!

さて、ここからまた大きな問題に直面します。

年金の受給額の少なさです。65歳からの年金は月額12万円くらいです。生活保護の条件が最低生活費である13万以下、同等くらいの金額のため、生活するのにかなり厳しくなります。さらに貯蓄がほとんど無い状態です。

現実の老後生活に直面すると、さすがに暗い気持ちになります。

53歳で介護離職したので、厚生年金の加入期間が短くなってしまったのです。年金の受給額も少なくなりました。一般的な会社員の場合は、60歳定年でさらに65歳までは再雇用で働きます。厚生年金加入期間は12年間の差が付いていることになります。

「介護離職」を避けるための制度・サービスとは

繰り返しになりますが、介護期間は予想ができません。思った以上に長くなり、費用がかかることがあります。そのため介護離職をしてしまうと、親子共倒れになることもあります。また介護が終わって自分が老後生活になった時に、老後資金が足りなくなったり、年金の受給額が少なくなることもあります。

できれば、介護離職は、避けたいものです。とはいえ、親の介護は待ってたくれません。どうすればいいか? じつは介護離職を避けるための方法としていくつかの制度やサービスがあるので、活用することをおすすめします。

介護休業給付金とは

雇用保険には、「介護休業給付金」の制度があります。

対象家族1人につき3回を限度として、通算93日まで所得することができます。その間の給付金は、給与の原則67%が支給されます。

もちろん通算93日だけでは、介護が終わるわけではありません。しかし、この93日間は介護の手配・準備をする期間です。

とても良い制度なのですが、残念ながら約9割の人がこの介護休業の制度を利用していないのです。働いている現場にそれぞれに事情があるかも知れません。

以前、「介護休業」のことを知り合いの会社員に言ったところ、「そんな申請できないよ、そんなことをしたら出社したときには席がないかもしれない」との反応でした。とても残念なのですが、制度と実際の現場とは違うとも感じました。使いやすい環境の整備が必要なのでしょう。

介護休業以外にも、下記のような制度があります。検討してみてください。

・介護休暇
・勤務時間の短縮などの措置
・法定時間外労働の制限
・深夜業の制限

「地域包括支援センター」に相談をする

介護は、できるだけ自分1人で抱え込まないようにするのが大切です。「兄弟はおらず、自分1人しかいない、だれに相談をすればいいの?」という場合でも、まずは、市区町村に1つはある「地域包括支援センター」に相談してみてください。

まだ介護が始まっていなくても、すでに介護が始まっていても大丈夫です。利用料は無料。

地域包括支援センターとは、高齢者の介護・医療・福祉など総合的に支援してくれる相談窓口です。専門のスタッフが介護サービス、日常生活支援などの相談に応じてくれます。

その他にも、市町村の役所には、相談の窓口があります。

介護は、一人で抱え込んでしまうと自分を追い込んでしまうものです。介護の負担を軽くしてくれる情報やサービスを教えてくれる人、話を聞いてくれる人がいます。まずは、相談をしてみてください。

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