ロマン・ポランスキー監督「現代にも通じる問題」 歴史的冤罪事件描く 「オフィサー・アンド・スパイ」

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6月3日より劇場公開される、第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞受賞をした、ロマン・ポランスキー監督最新作「オフィサー・アンド・スパイ」から、ロマン・ポンランスキー監督のインタビューが公開された。

現在88歳のポランスキー監督。「ローズマリーの赤ちゃん」「チャイナタウン」「戦場のピアニスト」などを世に残す一方で、ユダヤ人として強制収容所で親を失い、自身も逃亡生活を送り、妊娠中だった妻で女優のシャロン・テートをマンソン・ファミリーに殺害され、自らの少女への淫行でアメリカの裁判所から有罪判決を受けて仮釈放中にヨーロッパへ脱出と、波乱な人生を送ってきた。

今なおアメリカ当局から身柄引き渡しを求められているポランスキーの新作「オフィサー・アンド・スパイ」は、フランスで物議を醸すなか公開されると、観客動員100万人を超える大ヒットを記録。セザール賞では12のノミネートを受け、3部門(監督賞、脚色賞、衣装デザイン賞)で受賞を果たした。映画のテーマ性やクオリティの高さが絶賛される一方で、授賞式では著名女優のアデル・エネルらが抗議のため退場する一幕もあった。

公開されたインタビューは以下の通り。

-ドレフュス事件を映画化したいと思ったきっかけ
「大事件を元にした優れた映画は多くありますが、ドレフュス事件は傑出した物語性があると思います。“冤罪をかけられた男”というのは話として魅力がありますし、反ユダヤの動きが活発化している現代にも通じる問題です。まだ若かった頃、エミール・ゾラの半生を描いたアメリカ映画でドレフュス大尉が失脚するシーンを見て、打ち震えました。その時、いつかこの忌まわしい事件を映画化すると自分に言い聞かせました」

-このテーマを映画化するといったときの周囲の反応は
「ドレフュス事件について取り上げるというと、誰もが好意的な反応でした。しかし、実際にどんな事件なのか知っている人は、少ないことが分かってきました。実体が知られないままに、みんなが知っていると思ってしまっている歴史上の出来事のひとつです」
(制作については)「7年前に企画を話した時、アメリカの支援を受けるには英語での制作が必須と言われました。でも、フランスの軍人たちが揃って英語を話す姿は想像できません。リアルさを再現するためにフランス語でこの映画を作りたかったんです。それから、2018年にプロデューサーからフランス語での制作を打診され、ついに撮影をスタートすることができました」

-キャスティングについて
「ジャン・デュジャルダンは対敵情報活動を率いるジョルジュ・ピカール役にぴったりだと思いました。ピカールにそっくりだし、年齢も同じで、素晴らしい俳優です。映画にはスターが必要で、アカデミー俳優のデュジャルダンは適任です。彼を選んだのは当然の流れで、彼は喜んで引き受けてくれました」
「ピカールは自分の信念に従い、軍の考えに服従するより真実を知ること選びました。ドレフュスがスパイとされたことに疑念を持ち、ピカールは軍の制止を振り切り捜査を続け、真犯人を示す証拠を見つけるのですが、核心に迫るほど、軍の過ちがもたらした問題の渦中に自分がいることを畏れるようになります」

-反ユダヤ感情は消滅したのではなく、変容し、別の顔を持ち現在も続いています。今日における新しいドレフュス事件は起こりえると思いますか?
「現代のテクノロジーでは筆跡鑑定の不備で有罪になるようなケースはありえないでしょう。昔は軍隊が無限の権力を持っていましたが、もはや神聖な存在なんてありえません。今日の私たちは軍隊を含め全てに対して批判することを許されています。しかし、別の事件が起こる可能性は十分あります。冤罪、ひどい裁判、腐敗した裁判官、そして、ソーシャルメディア。事件が起こりうる要素はすでに揃っています」

-この映画について
「私にとってこの映画はスリラーです。ピカールの主観的な視点で語られている。観客は彼とともに捜査を進めている感覚になります。また、重要な出来事やセリフの多くは、当時の記録から事実を忠実に描いています」

-この映画はあなたにとってカタルシスのようなものだったのでしょうか
「いや、そんなことはありません。私の作品はセラピーではないです。ただこの映画で描かれている迫害の多くを知っているのは認めざるを得ないし、それが僕を奮い立たせたのは事実です」

「オフィサー・アンド・スパイ」は、歴史的冤罪(えんざい)事件として知られる「ドレフュス事件」の映画化作品で、ロマン・ポランスキーが監督を務めた。ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレルらが出演。第76回ベネチア国際映画祭では、銀獅子賞(審査員大賞)を受賞したほか、フランスの第45回セザール賞では3部門 (監督、脚色、衣装) を受賞した。

【作品情報】
オフィサー・アンド・スパイ
2022年6月3日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
配給:ロングライド
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