虐待疑いが続出する県立施設、入所する息子を心配する母の悲痛 ほかの家族も「人間らしく過ごさせて」

職員による虐待疑いに関する調査委員会の報告書を前に話す大橋靖子さん(仮名)=2022年5月、神奈川県内

 神奈川県の県立障害者施設「中井やまゆり園」(同県中井町)で、職員による入所者への虐待疑いが多数明らかになった。強い行動障害がある一部の入所者を1日20時間以上、外側から施錠した部屋に閉じ込めていたほか、職員の暴行による骨折を事故扱いにして隠蔽した疑いが以前に表面化していた。さらに、県の外部調査委員会が4月に発表した第1弾の調査結果では「シーツ交換の条件として、一部の入所者に数百回スクワットをさせていた」「職員が入所者の肛門に金属製ナットを入れた可能性が高い」など5件について虐待の疑いがあると指摘された。虐待疑いは計40件以上に上っており、委員会は調査を続ける方針だ。入所者たちは知的障害で話をするのが難しく、家族でもこれまでメディアの取材に応じる人はいなかった。ある50代男性入所者の母親が、その痛切な胸の内を初めて取材に明かした。(共同通信=市川亨)

 「中井やまゆり園」の前回記事はこちら

 https://nordot.app/879669037587759104?c=39546741839462401

 ▽部屋に閉じ込め、ポータブルトイレ

神奈川県立「中井やまゆり園」=2021年9月、神奈川県中井町

 取材に応じてくれたのは、中井やまゆり園に息子が約30年間入所している大橋靖子さん(仮名)=神奈川県=。
 息子の雅司さん(仮名)には自閉症がある。激しい自傷など行動障害もあったため、以前は施錠された部屋に長時間、閉じ込められていたという。部屋にポータブル便器が置かれ、雅司さんはそこで用を足していた。「『トイレは自分で行けるから、部屋にトイレを置くのはやめてほしい』とお願いしたが、断られた」と靖子さん。
 変化が起きたのは4年ほど前のことだ。担当職員が替わり、部屋から出してもらえるようになるなど支援が改善した。遊園地や動物園などにも連れていってもらった。雅司さんは徐々に行動障害が減って穏やかになり、笑顔も増えたという。

 ▽職員をころころ替えないで

 

中井やまゆり園に入所している大橋雅司さん(仮名)の腹部にできた大きなあざ=2019年2月

 「雅司さんの腹部に大きなあざができていた」。靖子さんは3年前、担当職員からこう報告を受けた。「別の職員が蹴ったのだと思う」とも告げられた。ただ、園は事故として処理しており、真相は分からない。
 靖子さんは園の医務課や医師にも不信感を抱く。あざができた際には「様子観察」とされ、なかなか医師の診察を受けさせてもらえなかった。雅司さんの胃が不調だったとき、検査結果を見せてほしいと園の医師にお願いした。返ってきた答えは「渡せないことになっている」。
 「行動障害を抑える薬が合っていないのではないか」と変更を頼んだ際も難色を示された。再三やりとりした結果、ようやく受け入れられたという。
 信頼していた職員は退職や異動でいなくなった。県は非正規職員を減らし、正規への切り替えを進めているが、人事方針により正規は3~5年で異動することになる。靖子さんは園から「今後は2年程度で担当を替えていく」と説明を受けたという。「障害の特性を理解するには時間がかかるし、経験や技能が必要。ころころ替えるのはやめてほしい」と訴える。
 他の施設を探すのは現実的に難しいと感じている。「息子のことが心配。(中井やまゆり園が)いい施設になってほしい。それだけが願いです」

 ▽「人間らしい過ごし方を」

 園は5月上旬、外部調査委員会の調査結果について、家族への説明会を開催した。「ナットの件などはおぞましい。怒りを感じる」「ヤンキーが焼きを入れているようだ」。家族からは厳しい批判が相次いだ。
 園に対する疑念の声もあった。「ボクシングをやったかのように子どもの顔がはれていたことがあった。『部屋の中で暴れてぶつけた』と説明を受けたが、疑わしい。ちゃんと調べてほしい」
 「人間らしい過ごし方ができるようにしてほしい。職員一人一人の意識改革が必要だ」。入所者と家族の共通の思いだろう。
 県は5月下旬まで家族全員にアンケートを実施。結果を公表するかどうかは「未定」としている。

神奈川県が中井やまゆり園の入所者家族に配ったアンケートの依頼文書=2022年5月

© 一般社団法人共同通信社