「ためになる、駄目になる」

 〈世の中は澄むと濁るの違いにて…〉で始まる狂歌がある。下の句は例えば〈福に徳あり フグに毒あり〉。澄むか濁るか、濁点があるかないかで意味の一変する言葉は少なくない▲〈ためになる人 駄目になる人〉というのもある。本当に必要とする人の「ためになる」はずなのに、中には「駄目になる」者がいる。新型コロナ対策の持続化給付金を食いものにした詐欺事件は「ためになる」を濁らせる▲グループで1780件のうその申請をして9億円以上を手にする。大学生たちをだまして給付金を得て、投資に回す。近ごろ逮捕された何件かの容疑をみると、「悪質」の一語ではまだ足りない▲おととしの春、当時の首相の安倍晋三氏と、今の首相の岸田文雄氏が国会で、持続化給付金を巡りやりとりをした。岸田氏「制度を悪用する懸念が指摘されるが、性善説に立って迅速な支給を」▲安倍氏「危機を乗り越えるのを最優先にし、不正は事後対応を徹底すればよい」。給付を急ぐあまりとはいえ、性善説に立った結果、経営危機と偽る申請者が引きも切らず現れた▲狂歌には〈逃げる犯人 追うは番人〉というのもある。法の番人、警察は給付金詐欺を追い続けるが、事件はまだ山積みだろう。「事後対応を徹底すればよい」。言うは易(やす)しだが、先はきっと長い。(徹)


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