伝統をつなぐ熱い思い 壬生の花田植 3年ぶりに開催 広島・北広島町

5日、広島・北広島町の伝統行事「壬生の花田植」が、3年ぶりに開かれました。コロナ禍の影響を受けながらも地域の誇りを受け継ごうと奮闘する住民たちを追いました。

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壬生の花田植は、田んぼの神を迎え、豊作を祈る伝統行事です。飾り付けた牛が代かきをしたあと、田楽団が太鼓などではやす中、早乙女たちが田植え歌を歌い、苗を植えます。

国の重要無形民俗文化財で、2011年にはユネスコの無形文化遺産に登録されています。

先月初め、大朝飾牛保存会の牛追いとメス牛8頭が集まりました。

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大朝飾牛保存会 白砂満義会長
「久しぶりですよ。3年ぶり。どういうふうに牛が動くか、確かめながら…」

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新型コロナウイルスの影響で、去年・おととしと中止になった壬生の花田植。この間、保存会も練習をしていません。久しぶりの牛追いとあって、歩みを止めてしまう牛もいました。

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大朝飾牛保存会 酒井邦昭さん
「これ、新品。まだ着ていない。これは花布団。買うと、70万円くらいするんじゃないかな」

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保存会の牛を育て、会員へ牛追いの指導もしている酒井さん。ことしの花田植を心待ちにしていました。

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酒井邦昭さん
「牛の調教を(若者に)教えて、技術も伝統も守っていきたい。これは続けてほしいです。衣装が腐ります」

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息子 酒井拓也さん
「牛の体調や機嫌などを見て、追い方を微妙に変えたりはする。本番までには仕上げていきます」

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練習の最初はとまどっていた牛たちも何周か歩くうちに牛追いとの息があってきました。この中から歩き方にぶれのない4頭が「飾り牛」として選ばれます。

こちらは、壬生田楽団の練習。総勢39人中、31人の団員が集まりました。こちらの練習も3年ぶりです。

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壬生田楽団の団員
「久しぶりに団員さんに会えたのがうれしかった。久しぶりに歌って全然、歌えませんでした」

壬生田楽団 吉本進団長
「これ以上、できない年が続くと、後継にも影響が出るんじゃないかな。新人団員さんも入ってくれたし」

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新入団員の郷田洋平さん。5年前に北広島町の壬生地区に引っ越してきました。これまでは花田植えを観客として見ていたそうです。

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壬生田楽団 郷田洋平さん
「(花田植が)再開できるというところで、今度は客としてではなく、田楽団として伝統芸能を楽しんでいけたら」

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花田植の大太鼓は、白い毛のついたバチを使い、音と動きで田植えをはやします。この日、練習が初めての郷田さん…。間近で見る打ち手の激しい動きに度肝を抜かれたようです。

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吉本進団長
「最初は手品している感じにしか見えない」

郷田洋平さん
「太鼓をたたくどころではないです。やばい。一日で心が折れそうです。動画を撮って帰らないと。見てるより、やると、全然、違います。動画を見ながら太鼓代わりのものを担いで練習したいと思います。あと1か月、なんとかものになるように」

本番の朝、近くの神社で飾り付けられた牛が商店街を通り、田んぼへ向かいます。

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ただ、例年とは様子が違います。花田植が無観客での開催のため、道行と呼ばれる田楽団がはやしながらの飾り牛の披露もありません。

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近くの住人
「静かです。でも、できてよかったですよね」

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大朝飾牛保存会 酒井拓也さん
「何か不気味な静けさがある。牛は落ち着いているので、いい花田植になると思う」
― 無観客だから?
「そうでしょうね。人間が緊張していますもん」

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ことしの花田植は、感染対策として田んぼの周囲に観客席は設けられていません。毎年、6000人の見物客が訪れますが、今回、見ることができるのは関係者だけです。

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また、田楽団の囃子の曲数や飾り牛の頭数を減らすなど、田植え時間を短縮する工夫もしました。例年と違う部分があるものの、田楽団や飾り牛はこれまでの練習の成果を発揮することができたようです。

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壬生田楽団 郷田洋平さん
「やり切った感はありますけど、悔しさもあります。もうちょっと上手にできればなというところで」

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壬生神楽団の団員たち
「無事に終わって安心した。毎年、ちょっとずつでも続けていかないといけない」

「来年は有観客で、みなさんに見てもらう中でやりたい」

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壬生の花田植保存会 藤本隆幸理事長
「実際に田んぼに入ってくれることなんですよ。経験を積むことで、継続に対する意欲も責任感も生まれてくる。それによって、この花田植えが成り立っていることをつくづく感じました」

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長年続いてきた伝統行事「壬生の花田植」―。壬生地区の人たち総ぐるみで3年ぶりに田んぼは、にぎやかに、鮮やかに彩られました。

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