反撃能力

 「詭弁(きべん)」-。手元の辞書には〈本来つじつまの合わないことを強引に言いくるめようとする議論〉とある。「詭」の字の訓読みは「あざむく・あやしい・いつわる・そむく」▲改めて調べてみて、やっぱりこれは「詭弁」のお手本だ、と感じている。自民党が参院選の公約に盛り込んだ「反撃能力」である。弾道ミサイル攻撃に対処するため、相手領域内のミサイル発射基地などを破壊する能力-を指す▲少し前まで「敵基地攻撃能力」と呼ばれていた。〈この能力を説明する用語が「攻撃能力」であること自体、「自衛」や「防御」の枠をはみ出している証拠ではないか〉と安倍政権時代に書いたことがある。納得のいく説明を聞いた覚えはないまま、名称が言い換えられた▲だが「反撃」は〈相手の攻撃に対して、反対にこちらから攻撃する〉ことだ。相手の領域に出かけていって、ミサイル発射の前に何かの実力を行使することが、この言葉で説明できるとはどうしても思えない。話がすり替わっている▲いつの時代も「自衛」や「反撃」は戦争や戦闘行為を正当化するマジックワードだ。だからこそ安易な“拡張”は厳しく戒められなければならない▲これは自衛だ、反撃だ-と危険な何かが始まる前に徹底的な議論を求めたい。しつこく疑問をぶつけたい。(智)

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