円安、株価落下…情報に踊らされる投資家にならないための「疲弊しない投資」

昨年の秋頃に投資の相談をしてきた知人と話をする機会がありました。投資対象には日本株よりも米国株の方が良いという情報をSNSやYouTubeでよく目にするので、米国のインデックスファンドを積み立てているといいます。ただ、年始から日本の株価指数のパフォーマンスが米国より良いため、つみたて投資の対象を変えようかと考えているということでした。そして、そもそも株式市場自体が日米ともに調子が悪いので、つみたて投資自体をやめることも考えているそうです。投資は自己責任ですから、どのような選択をするのも個人の自由です。でも、この感情の揺さぶられ方から、改めて投資に重要な考え方を学ぶことができるのではないでしょうか。


相場に揺さぶられた理由

2022年はコロナ禍、世界的なインフレ懸念、ロシアのウクライナ侵攻、欧米の金融引き締めへの転換など、投資家にとっては非常に難しい局面が続いています。ここで日米の株式市場(S&P500、TOPIX)と為替(ドル円)が年始からどのように推移してきたかを指数化して確認しましょう。年始を100としていますが、ドル円の場合は数字が小さくなるほど円安(ドル高)になる計算をしています。

2022年は年始から株安、円安が進行していますが、たしかに株式市場では米国よりも日本の下落率が小さく済んでいます。しかし、注意したいのは、そもそもつみたて投資を始めたときに、「長期で投資を続けると決めたのではないか」です。上図は対象期間が半年にも満たない短期です。20年、30年の長期で考えたときに、この傾向がずっと続くとは考えにくいのです。

日本株よりも米国株の方がいいと考えた理由を聞いてみれば、「米国経済の成長力が日本よりも高く、米国企業の方が日本よりも稼ぐ力が高い」と答えていました。この半年にも満たない期間でその根拠は逆転したのでしょうか。投資をする以上、相場が気になるのは分かるのですが、値動きに一喜一憂するのは疲弊するだけで無駄であることを理解しましょう。

円安の背景を考える

ほかに出てきた話題は「FX(外国為替証拠金取引)を始めようと考えている」でした。メディアで「悪い円安論」が連日報じられ、専門家も1ドル=150円、200円と今後も円安になると言っていたから、「円を売ってドルを買えば簡単に儲けられるのではないか」とのことです。しかし、情報に踊らされる前に自分の頭で考える必要があるでしょう。

今回の円安の背景はひとえに日米間における金利差の拡大にあると言えます。金融緩和を継続する日本に対して、インフレを退治すべく利上げをしている米国という明確な違いがありますから、円安傾向になるのは当然です。しかし、為替も株も将来を織り込んで値段が動くものであり、ある程度の金利差が開いていくことを織り込んだ状態がいまの水準です。

米国が利上げを続けていくなかで景気が減速していけば、いま想定されているよりも利上げペースは鈍化するでしょうし、再びコロナで行動制限がかかったり、ロシア・ウクライナ事案で不測の事態が起きたりすれば、それもまた利上げペースの減速に繋がります。そうなれば、一時的には円安傾向は鈍化します。

メディアで円安の話題が増えたとか、専門家が「いくらになる」といった情報だけでつどつど投資スタイルを変えていたら、ただ疲弊するだけで終わってしまうのです。

利上げ=株安は本当か?

最後に言っていたのが、「いまは米国が利上げ局面に入ったから株式投資は不利だ」というものでした。しっかりとデータを見たのか聞いてみると、それもまたネット上でそのような情報を見たというのです。下図は米国の政策金利と株価の推移をグラフにしたもので、網掛け部分が利上げ局面です。

言うまでもなく、利上げ局面だから株安というのは印象論でしかないことが分かります。そもそも、景気が過熱しているのを抑えるために利上げしているのだとすれば、利上げ局面は好景気なわけですから、株高であることにも納得できるでしょう。

しかし、今回の利上げ局面は景気が過熱しているというよりは、エネルギー価格や資源価格の高騰による高インフレを抑えるための利上げです。金融引き締めによって景気が大きく減速するリスクシナリオは頭に入れておくべきでしょう。

疲弊するだけの投資はやめよう

これまで見てきたように、自分の頭で考えず、データを見ないままに情報に踊らされて投資をすることがいかに危険なことかが分かったかと思います。情報に踊らされたり、株価や為替の動きに一喜一憂していたりすると、投資がうまくいかないどころか、疲弊するだけです。しかし、身銭を切って投資を始めれば、ネットに転がる無数のニュースが気になり、株価や為替の動きが気になってしまう気持ちはよく分かります。

だからこそ、仕事や趣味、勉強など投資以外のことに時間を使う個人投資家にとっては、相場から適切な距離を保ちつつ疲弊しない「つみたて投資」がオススメされるのです。せっかく投資の世界に足を踏み入れたのだから、疲弊せずに楽しめる投資方法を実践していきましょう。

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