カンヌ受賞の早川千絵監督 学生に助言「紆余曲折があったからこそ撮れるものもある」

「PLAN 75」メインビジュアルポスター ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

第75回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」に出品され、新人監督賞「カメラドール」の特別表彰を受けた早川千絵監督(45)が9日、都内の武蔵野美大で行われた映画「PLAN 75」(17日公開)の試写会に撮影監督を務めた浦田秀穂氏とともに参加。約180人の学生とのティーチイン(討論集会)では「紆余曲折があったからこそ撮れるものもある。好きだったら、ずっと続けて、しぶとくやっていくと良いのではないかと思います」と、アドバイスを贈った。

超高齢化社会に対応すべく75歳以上が自らの生死を選択できる制度<プラン75>が施行される近未来を舞台に、夫と死別してひとりで慎ましく暮らす78歳の角谷ミチ(演・倍賞千恵子)、市役所の同制度申請窓口で働くヒロム(演・磯村勇斗)、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(演・ステファニー・アリアン)の3人を軸に、その制度に大きく翻弄される人々の姿を描いた作品。映画を観て、若い世代がどのような感想を持ったのかを直後聞ける機会を非常に楽しみにしていたという早川監督の挨拶からティーチインは始まった。

映像制作を学んでいる学生から、画面に意味を持たせる作用があったように感じたというカメラワークについて尋ねれられた早川監督は「ミチ、ヒロム、マリアと三人の主人公がいる物語なので、それぞれのトーンをどう変えていくのかということを最初に浦田さんと話し合いました。その中で、マリアは、とにかく生きるという気持ちが強いキャラクターだったので、彼女のそういった姿をビビッドに表現するために手持ちカメラで撮影しようと決めました」と意図を明かした。

ティーチインに参加した早川千絵監督と浦田秀穂撮影監督=武蔵野美大

自身でも脚本を執筆しているという学生から「物語の大筋的な部分や転換には深い影響がないような登場人物たちの細かいディテールやシーンが多いと感じました。私自身はディテールを細かく書くのが苦手なのですが、脚本を書く際に意識していることはありますか?」と質問され「一見すると物語に関係ないと思われるかもしれませんが、割とそれぞれのシーンに意味を込めています。例えば、ミチが同僚たちとカラオケで歌うシーンですが、彼女にとって幸せな場所があったことを描いています。物語が進む中で、そういったミチにとっての幸せがどんどん失われていく様をいかに際立たせるかを考えて作ったシーンです」と具体的なシーンを挙げて説明。「映画にとってディテールは大事です。私が今まで好きな映画というのは、別にそのシーンが無くても成立するのに、なぜかそこのシーンだけ覚えているとか印象に残るというものが沢山あります。ですから、そういったシーンをなるべく大事にしていて、脚本の段階から入れたいなと思っています」とこだわりを語った。

劇中で描かれる老人同士の会話やミチの暮らしぶりを見て、将来の自分の姿を想像し、年老いて邪険に扱われる日が来るのかと思うとビックリしたが、世代問わず誰もが共感できる映画だなと思ったと学生が感想を述べると、「歳を取ったおばあちゃん達は自分とは違うという考えや記号しての高齢者ではなく、私たちの地続きに居る人だということを描きたかったんです。私たちが70歳、80歳になったらいきなり違う人間になるというわけではない。高齢者の方々にも友だちがいて、好きなものがあって、性格があって…自分と同じ人間なんだというのを、特に若い人たちが観た時に感じて欲しいなと思っていたので、(そういう感想を言っていただけて)すごく嬉しいです」と笑顔を見せた。

これから映画業界や芸術分野に進もうとしている学生たちに、制作者としての助言を求められた早川監督は「映画を作りたいと思ったのは小学生や中学生の頃だったけれど、実際に映画作りの一歩を踏み出せたのは30代半ばでした。若いうちにしか撮れないものももちろんあるけれど、結構遠回りしていろんな紆余曲折があったからこそ撮れるものもある。好きだったら、ずっと続けて、しぶとくやっていくと良いのではないかと思います」と自身の経験を踏まえ、アドバイスを贈った。

浦田氏は「脚本段階で決めることはなく、現場で監督の演出や役者の動きを見ながら、カット割りや撮影方法を決めていきました」と撮影を振り返った。脚本に関しては「完璧な脚本というのがあるとは思っていません。今作の脚本を初めて読んだ際、監督に“セリフが多すぎる”と言ったのを覚えています(笑)でも、実際に現場で役者の方がセリフを発すると、脚本で読んだ時とは違う印象を受けることがあるし、言葉が無くても成立するシーンもある。役者が演じることで変わっていく部分というのがあるので、脚本に書かれていないものを現場で汲み取っていく力も大事です」とカメラマンとしての見解を示した。映画業界を志す学生に向けては「好きなことをやれるのは多分10年ぐらいだと思うんです。信じてやり続けることはもちろん大事ですが、作り続けることが一番難しいので、続けられるモチベーションを今から何か探しておく。僕もよく言われてきたんですが、“好きなことをやる為に、やらなきゃいけないことを必ずやっておく”、これが一番大事だと思います」と語った。

「PLAN 75」チラシ裏 ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
映画「PLAN 75」より ©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

(よろず~ニュース編集部)

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