離島防衛、奪還の行方 水陸機動団どう動く 長崎県内新たに連隊配備へ

着上陸訓練で煙幕をたきながら砂浜へ進むAAV7(上)と、訓練で砂浜に上陸した偵察部隊=5月21日、佐世保市宇久島

 離島奪還を担う陸上自衛隊の水陸機動団(本部・佐世保市)に新たに編成される1個連隊が、大村市の陸自竹松駐屯地に2023年度に配備されることが決まった。尖閣諸島周辺で活動を活発化させる中国などを念頭に各方面から「日本を取り巻く情勢の緊迫化」という声が聞かれる中、長崎県内では連隊の配備や施設整備に向けた動きが進んでいる。創設から5年目を迎えた機動団からみえる離島防衛、奪還の行方を探った。

 5月21日、佐世保市の宇久島。日差しが照り付ける中、機動団が海上自衛隊と共同で着上陸訓練を実施した。着上陸訓練の公開は防災訓練を除き県内では初。陸自約500人、海自約400人が参加した。
 敵に占拠された島で、住民の避難が完了した状況を想定した訓練。澄んだ碧海(へきかい)の中、海自の輸送艦おおすみ、くにさきが陸自隊員や水陸両用車AAV7(全長約8メートル)などの装備品を運び、ボートに乗り換えた偵察部隊が砂浜に上陸し安全確認と警戒監視を展開した。主力部隊が乗り込む6両の水陸両用車が敵の目をかく乱するため、煙幕をたきながら上陸していった。その後に歩兵の前進を支援する迫撃砲など重火器を積んだエアクッション型揚陸艇(LCAC)1艇が続いた。
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 大掛かりな訓練だが、この日公開されたのは実任務のほんの一部に過ぎない。宇久島で報道公開された海自と共同での着上陸訓練は作戦における基本的な部分の内容となる。そもそもの離島防衛の流れはこうだ。情勢が厳しくなる前に準備を整えるため、各種事態に速やかに対処する即応機動連隊(北海道などに配備)などの部隊が駆け付け、敵の上陸を抑止する。だが自衛隊の展開よりも先に敵が行動を起こした場合など、島を占拠されることも想定される。その際に「奪還」の役割を担うのが機動団だ。
 機動団の実際の作戦では、まず航空機や艦艇の攻撃で制空、制海権を取り「数は具体的には言えないが敵を減らしてから機動団が上陸する」(陸自幹部)。最初に上陸した偵察部隊は隠れた敵を撃破するため位置情報などを送る。その後に主力部隊が水陸両用車やボートなどで上陸していく-。こういった流れだ。
 だがこの流れはあくまでオーソドックスな作戦パターン。例えば上陸できる海岸がなければ水陸両用車は使用できない。場所や海象といった条件によって作戦は左右される。
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 機動団は主力部隊である第1、2水陸機動連隊(各約600人)をはじめ現在は計約2400人。二つの連隊は陸自相浦駐屯地(佐世保市)に配備されており、三つ目の連隊も600人規模とみられ、通信や後方支援部隊も合わせて計約3千人による態勢が整う。創設以降、佐世保をはじめ県内では機動団の運用や訓練、施設に関する整備が着々と進んでいる。
 陸自崎辺分屯地(同市)には水陸両用車の上陸訓練ができるスロープを新設する計画がある。環境調査は22年3月に完了。だが防衛省は結果について「地元に先に伝え、協議していく必要がある」とし明らかにしていない。規模も現時点では未定。同分屯地に近接する崎辺東地区では、海自の大型艦船の係留施設や補給倉庫といった整備が計画され、海自と機動団の連携が進むとみられる。
 水陸両用車AAV7に関しては上陸性能の向上や高速航行などを実現するための研究が続く。AAV7の最高速度は海上が時速13キロ、陸上は72キロ。第1水陸機動連隊の開雅史連隊長は海から陸地に上がる瞬間が「作戦上、一番脆弱な( ぜいじゃく )部分」と指摘。「海から陸上に上がるまでの段階で、自前の火力を十分に発揮できない状態なのでそこを突かれるときわめて弱い。より速度が出せれば短時間で上陸行動を実行できる可能性が生まれる」と現場の思いを口にする。
 陸自木更津駐屯地(千葉県)に暫定配備している陸自輸送機オスプレイを巡っても、防衛省は県内で初の訓練を計画している。早ければ今年6月下旬以降、相浦駐屯地や海自大村航空基地(大村市)で人員や物資を搭載して輸送し展開する訓練などを予定。有事の際にはオスプレイによる島しょへの輸送任務を想定しており、今後の運用が注視される。

大村湾に面した陸自竹松駐屯地の海側からの様子。以前から機動団がボートによる着上陸訓練を実施している=大村市

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 離島奪還を担う機動団だが、離島には無人もあれば有人もある。ロシアによるウクライナ侵攻では住民を巻き込んだ戦闘が起きている。有人離島での対処はどういったものになるのか。
 武力攻撃の発生やそれが予測される事態となった場合、国が各都道府県へ避難指示を出し、各自治体が住民の避難誘導を担う。領土・領海の治安維持は一義的に警察と海保が担い、事態がエスカレートした場合、自衛隊が治安出動などの発令を受けて対応するようになっている。
 陸自は、有事発生前の住民避難、自衛隊による対処といった一連の流れを確認する演習「YS(ヤマサクラ)」を米軍と共同で毎年展開。水陸機動団は毎年参加している。部隊の移動時間や損耗も踏まえた内容だが、あくまで図上でのシミュレーションだ。「実動訓練をすれば『自衛隊は国民がいるのに戦闘を始めるのか』とみられてしまう懸念があると思う」。ある陸自幹部は、「実動」訓練を実施する難しさについてこう口にする。
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 機動団のカウンターパートとして共同訓練を深化させている米海兵隊には組織改編の動きが出ている。高性能なミサイルを持つ中国との島しょ部での戦いを想定した「遠征前方基地作戦(EABO)」に対応するためだ。海軍の作戦支援を目的に小規模で即応力のある「海兵沿岸連隊(MLR)」を創設。MLRは敵のミサイル攻撃などが届く範囲内で米海軍と連携し機動的に対応する。米海兵隊は今年3月、ハワイの部隊を再編しMLRを創設したと発表している。
 元陸将補で日本大の吉富望教授は組織改編について「従来は侵略された所へ乗り込み、歩兵が主体となって敵の地上部隊を撃破し奪還する戦法だった。(作戦では)侵略される前、もしくは敵が少数の状態の時に乗り込み、ミサイルやロケット砲などで艦艇や航空機を撃破し、敵が近寄ってこないようにする」と解説する。強大化した中国を相手に従来型の作戦だけでは通用しないとの見方だ。
 すでに陸自は米海兵隊と昨年12月、東北や北海道で遠征前方基地作戦を踏まえた共同訓練を実施している。吉富教授は「陸自も非常に注目しているのは確か。その中で遠征前方基地作戦において、どの部隊が米軍のカウンターパートになるかを試行錯誤している状態ではないか」と分析する。
 事前に配置し敵に手を出させないようにする点では即応機動連隊の考え方に近い。第1水陸機動連隊の開連隊長は「全体の態勢の中で互いの役回りをどう果たすか。そこを整理するため海兵隊がやろうとしているコンセプトをしっかりと理解しないといけない。理解をし、われわれがどのように変えていき、変えないでいくか。整理することがきわめて重要だ」と語る。


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