金融資産9000万でリタイアを考える57歳独身会社員。老親が住む実家の相続税が心配

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、57歳独身、会社員の男性。金融資産9,000万円とマンションを保有していますが、このまま退職して問題ないか知りたいと言います。また、遠方に暮らす両親の家を相続する際の相続税を心配していますが、判断のポイントは? FPの飯田道子氏がお答えします。


57歳独身、会社員です。57歳で早期退職を考えています。現在の資産状況で可能か診断お願いできないでしょうか。

持病があり、年間24万円ほど医療費の出費があります。退職金は手取りで800万円ほどです。

現在は都内の持ち家(マンション)で一人暮らしですが、名古屋の実家の両親が86歳なので、介護の必要になるかもしれず、同居の可能性があります。両親は持ち家に住んでおり、今後相続することになりますが、同居していないので相続税の負担が大きくなると思います。相続後は建て替えるか、売ったほうがいいか悩んでいます。親はどちらでもいいと言っています。

【相談者プロフィール】

・男性、57歳、会社員、独身

・同居家族について:今はいませんが。

・住居の形態:持ち家(マンション、東京都)

・毎月の世帯の支出の目安:30万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:4万5,000円

・食費:6万円

・水道光熱費:1万5,000円

・教育費:なし

・保険料:1万円

・通信費:1万1,000円

・車両費:なし

・お小遣い:10万円

・その他:7万円

【資産状況】

・現在の貯金総額(投資分は含まない):8,400万円

・現在の投資総額:700万円

・現在の負債総額:なし

※編集部注 相談内容は一部編集させていただきました。

飯田:今回は、早期退職を考えている57歳の相談者様で、現在の資産状況で早期退職が可能か知りたいようです。その他、ご実家の相続に関しても、どのように対処するべきかお悩みのようです。相談者様の場合、早期リタイアは可能なのでしょうか。また、ご実家の相続は、どのようにすれば良いのでしょうか。考えてみましょう。

早期退職は可能。ただしあらかじめ収支を把握して

まず、早期退職は可能かどうかを考えてみます。

現在の毎月の支出額は、およそ30万円。お小遣いが10万円になっていますが、半額の5万円にして、90歳までの33年間の生活費を考えてみます。この場合は、25万円×12カ月×33年間=9,900万円です。その他、医療費として、24万円×33年間で792万円、60歳までの国民年金保険料1万6,590円(2022年度の保険料金)×12カ月×3年間=59万7,240円です。

ざっくりとした金額になりますが、これらを合計すると、33年間の支出額は1億751万7,240円になります。

一方の収入を考えてみます。現在の貯蓄額は8,400万円、投資額は700万円ですので、単純計算で9,100万円です。また、65歳から公的年金を受け取ることが可能になります。相談者様の年金額が不明なので、ここでは、厚生労働省が発表した令和2年の全国平均の厚生年金の受給額(14万6,145円)を受給できるものとします。わかりやすく、1カ月14万円として計算した場合、90歳まで25年間で受給する公的年金額は、14万円×12カ月×25年間=4,200万円です。

すると、収入の合計額は、9,100万円+4,200万円=1億3,300万円です。実際に受け取れる年金額は、さらに多いかもしれませんが、頂いているデータで計算しても、2,500万円強の黒字になります。

こちらの金額は、あくまでも仮の金額です。年金額等、実際に受給する金額で試算することをおすすめします。

参考:令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況

実家の相続をどうするか

相談者様もご存知のように、現在はご両親と同居していないため、このままでは相続が発生したときに、「小規模宅地等の特例」(※)に該当せず、相続税評価額に対して最大80%の減額を受けることができない可能性が高いでしょう。同居を考えているのなら早めに同居を開始し、特例の基準である完全同居をしたほうが、ご両親も心強いでしょう。

ただし、気になるのは相談者様の持病のことです。私にも持病があり通院を続けているのですが、新たな病院を探すとなると、なかなか思い切ることも難しいのではないでしょうか?

ご両親は「自由にしていい」とおしゃってくださっていますので、相談者様がどうしたいのかが重要です。

現状で相続が発生した場合は、ご両親のいずれかと相談者様が相続し、その次の相続で相談者様が単独で相続(兄弟姉妹がいない場合)になります。

ご両親の介護が始まったときには、もう一人の親御さんの負担になってしまいますので、できるだけ早く同居したほうがよいのかもしれません。とはいえ、大切なのは、相談者様自身が将来、ご実家のある名古屋で暮らしたいのか、それとも東京で暮らしたいのかです。

いくつかのパターンを考えて、自分の進むべき道を考えてみてください。

※参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

早期退職後の暮らし方2パターンのポイントを整理

では、退職後の暮らし方の2パターンのポイントを整理してみましょう。

【名古屋で完全同居をする場合】
・新たな通院先を探す
・小規模宅地等の特例の対象となり、宅地の相続税評価額を最大で80%減額することができる
・将来的に東京へ戻ってくるなら、現在の住まいを賃貸として貸し出して収入を得るのもあり
・東京へ戻ってこない場合には、賃貸で収入を得る他、売却してしまい固定資産税などのコストがかからないようにすることも可能

【東京から名古屋へ通ってご両親の面倒をみる場合】
・小規模宅地等の特例は使えない
・名古屋まで定期的に通う場合には、交通費等をコストとして計上し、シミュレーションすることが大切になる
・実家を売却してしまい、固定資産税などのコストがかからないようにすることができる
・相談者様自身の移動が多くなり、身体的にきつくなる可能性あり

簡単ですが、名古屋で暮らす、東京で暮らすという2つのパターンについて考えてみました。この他にも、相談者様自身で、やっておきたいことや準備したいことなどがあるかと思います。それぞれのパターンでどのようになるのか、どのように暮らしたいのかを書き出して、自分が望むカタチの幸せを手に入れてください。

ご両親の介護のことを心配するなど、相談者様は優しい方なのですね。ただ、ご両親との生活よりも、相談者様自身の生活のほうが、長く続きます。金銭的には余裕がありますので、自分が望む生活は何かを考えて、選ぶようにしてください。

© 株式会社マネーフォワード