第2回「ロシアのウクライナ侵攻に関するアンケート」調査  ~ 「経営にマイナス」が50.9%、2カ月で15.4ポイント増 ~

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから4カ月。国内企業への影響が急速に広がっている。

 東京商工リサーチは6月1日~9日にかけて、「ロシアのウクライナ侵攻」についてアンケート調査を実施した。ウクライナ情勢で経営にマイナスの「影響を受けている」企業が50.9%に急増していることがわかった。前回調査(4月)は35.5%にとどまっていたが、2カ月で15.4ポイント増加した。また、「今後影響が見込まれる」と回答した企業は33.9%で、合計84.9%の企業が経営への悪影響を危惧している。

 「影響を受けている」と「今後影響が見込まれる」と回答した企業数を有効回答数で割った「影響率」は、「家具・装備品製造業」や「非鉄金属製造業」などで100%に達した。

 マイナスの影響を受けている内容は、原油や原材料の高騰、為替変動による利益圧迫と回答する企業が目立った。

 新型コロナウイルスの新規感染者数は次第に落ち着き、外出自粛の制限もなくなり、経済活動は再開に向けて動き出している。だが、コロナ禍に加えて、原油高や円安、ウクライナ情勢が一気に押し寄せ、企業経営に冷や水を浴びせている。

 ※本調査は、2022年6月1日~9日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答6,126社を集計・分析した。

 ※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

   

Q1.ウクライナ情勢の緊迫化に伴い、貴社は経営にマイナスの影響を受けていますか?(択一回答)

  「マイナスの影響」、84.9%に達する

 ロシアのウクライナ侵攻で経営にマイナスの「影響を受けている」と回答した企業は50.9%(6,126社中、3,123社)、「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」は33.9%(2,082社)で、これを合計すると企業の84.9%が「マイナスの影響」に言及している。前回調査は、それぞれ35.5%、46.0%だった。

 規模別では、「マイナスの影響」と回答したのは、大企業86.2%(879社中、758社)、中小企業84.7%(5,247社中、4,447社)で、大企業が1.5ポイント上回った。前回調査では、それぞれ80.9%、81.6%だった。

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  非鉄金属製造」など3業種が100%

 マイナスの「影響を受けている」、「今後影響が見込まれる」と回答した企業を業種別(中分類、回答20以上)で分析した。

 影響があると回答した企業の割合(影響率)は、「家具・装備品製造業」(32社)、「非鉄金属製造業」(27社)、「自動車整備業」(23社)が各100%だった。

 ロシアのウクライナ侵攻は、家具製造に必要な木材、非鉄金属のアルミニウムやニッケル、ガソリン車の排ガス浄化触媒に必要なパラジウムなど、様々な商流に影響を及ぼしている。

 以下、「ゴム製品製造業」97.2%(36社中、35社)、「飲食料品小売業」97.1%(35社中、34社)と続き、上位24業種が90%以上だった。

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Q2. Q1で「影響を受けている」、「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」と回答された方に伺います。どのような影響を受けていますか(見込まれますか)?(複数回答)

  「原材料高騰」が最多

 Q1で「影響を受けている」、「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」と回答した企業のうち、5,023社から回答を得た。

 影響の最多は、「原油以外の原材料高騰に伴う利益圧迫」の74.4%(3,741社)。

 次いで、「原油高騰に伴う利益圧迫」の67.0%(3,370社)で、多くの企業がコストプッシュによる利益悪化を懸念している。前回調査では、それぞれ73.5%、67.3%だった。

 また、「現地(ロシア・ウクライナ)での生産、部品調達がしにくくなった」は9.0%(457社)、「現地以外での生産、部品調達がしにくくなった」は21.2%(1,068社)だった。

 前回調査では、それぞれ7.9%、17.2%で、サプライチェーンへの影響は日を追うごとに広がっている。

 その他では、「ハッカーの活動が侵攻以降、活発化し、システム対応が増えている」(情報通信業)、「自動車部品用梱包材の販売低下」(包装材料製造業)など。

Q3. Q2で「現地(ロシア・ウクライナ)での生産、部品調達がしにくくなった」、「現地以外での生産、部品調達がしにくくなった」と回答された方に伺います。貴社ではどのような対応策を取っている(取る予定)ですか?(複数回答)

  3割弱が「国内回帰」

 Q2で「現地(ロシア・ウクライナ)での生産、部品調達がしにくくなった」、「現地以外での生産、部品調達がしにくくなった」と回答した企業のうち、1,155社から回答を得た。

 対策の最多は、「取引先に部品確保を要請」の51.8%(599社、前回51.1%)、次いで「在庫の積み増し」の41.4%(479社、同43.1%)の順だった。

 一方、「国内(日本)生産・調達へ回帰」は26.8%(310社、同26.4%)で、前回調査とほぼ同水準となった。

 円安の加速や、新興国の経済成長に伴い国内の人件費の割安感、安心感も国内回帰に繋がっている要因かも知れない。

 また、「現地(ロシア・ウクライナ)以外の海外へ生産・調達先を分散」は14.8%(172社、同14.0%)だった。

 ウクライナ情勢が国内企業のサプライチェーンに大きな影響を与えているほか、短期収束に悲観的な見方を示している。

   

 ロシアがウクライナに軍事侵攻し、4カ月が経過する。この間、事態は一向に収拾が見通せず、影響は国内企業にも広がっている。

 今回のアンケートで、「経営にマイナスの影響を受けている」と回答した企業は50.9%で、半数を超えた。前回調査(4月)の35.5%から15.4ポイント増加し、企業が懸念する悪影響が現実のものになっている。また、「現時点で受けていないが、今後影響が見込まれる」も33.9%に達し、情勢が混迷を極めるほど経営に悪影響を受ける企業が増え続けている。

 「マイナスの影響」の内訳は、「原油以外の原材料高騰に伴う利益圧迫」、「原油高騰に伴う利益圧迫」がそれぞれ74.4%、67.0%で、コロナ禍から回復を目指す企業の足を引っ張っている。

 また、サプライチェーンの乱れも深刻だ。「在庫の積み増し」や「現地(ロシア・ウクライナ)以外の海外へ生産・調達先を分散」する形で、緊急避難的に対応する企業も多い。だが、こうした対応は、資金固定化やコストアップなどの資金の非効率化、検収(検品)作業の煩雑化に繋がりやすい。

 「国内(日本)生産・調達へ回帰」と回答した企業は26.8%で、前回調査から0.4ポイント増加した。国を跨ぐグローバルサプライチェーンの維持は、コスト変動だけでなく、安定調達が難しい。まさに、今回のロシアの軍事侵攻は、カントリーリスクだけでなく、安定調達の問題が顕在化したといえる。国内では原材料の高騰や人手不足が続き、サプライチェーンの安定化や収益環境の緩和には時間が必要だろう。また、国内回帰に向けて経営基盤が弱い企業をサプライチェーンに新たに取り込んだ場合のリスクも慎重に検討しなければならない。

 加速する円安、高止まりする資源価格に追い打ちをかけるロシアの軍事侵攻。影響は時間の経過とともにさらに広がり、企業を取り巻く環境は厳しさが続くとみられる。

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