モデルから福祉の世界へ アベリア西海代表社員 本川パトリシアさん(55)

アベリア西海の代表社員を務める本川さん

 10代後半から20代にかけてモデルとして活躍。ファッション雑誌をメインに、大手企業のテレビCMにも数多く出演した。それから20年余り。今、福祉の世界に楽しさを見いだし、再び輝きを放っている。

 「たくさんあるね。ここはこうしたらいいよ」。西海市西彼町にある就労継続支援B型事業所「ピコティー」。施設を運営する合同会社「アベリア西海」の代表社員、本川パトリシアさん(55)は、商品の箱詰めをしていた利用者に笑顔で声をかけた。
 佐世保市出身。フランス系カナダ人で米国籍の父親と日本人の母親の間に、次女として生まれた。転機が訪れたのは中学3年だった15歳のとき。「モデルにならないか」。母親と四ケ町で買い物をしていた際、スカウトされた。声をかけてきたのは後に所属する事務所の社長で、佐世保に帰省中だった。乗り気ではなく、その後の誘いも断り続けていたが、大手化粧品のCMに出ているモデルが所属していることを知り、気持ちが傾き始める。モデルになることを決意し、中学卒業後に上京した。
 すぐさま雑誌でデビュー。「東京で1人暮らし。最初は帰りたかったが、次第に『とにかく楽しい』の一言に。嫌な気持ちになったことは全然なかった」と振り返る。以後、次々と仕事をこなしていたが、母親が体調を悪くしたため30歳で帰郷。34歳で結婚し、夫が住む西彼町に移り住んだ。
 元々、福祉に興味があったわけではなかった。家の近くで仕事がないか探していたところ、老人介護職の募集を見つけた。働きながら何げなく資格を取っているうちに、興味が芽生え、中でも障害者の支援に関わりたいと思うようになった。障害者施設で経験を積み2018年6月、アベリア西海を設立。19年12月に今の中山郷へ新築移転し、「ピコティー」のほか生産活動を兼ねたカフェ、相談支援事業所「すずらん」を9人の従業員と切り盛りする。

利用者に作業のアドバイスをする本川さん(左)=西海市、ピコティー

 利用者は現在、18~75歳の18人。障害の程度はさまざまで、性格も十人十色。対応に戸惑うときもあるが、「日々が勉強」と自身に言いきかせ、利用者も楽しさを覚えるような支援を第一に考えている。
 一方、運営側になり複雑な気持ちに陥ったことも。「楽しく福祉の仕事をするつもりが、気が付けばお金の計算をしてたり。楽しいからやる、それだけでは難しいと本当に思った」という。「でもやっぱり楽しいし、好きなのかな」
 今、グループホームの建設を計画している。「若い利用者が多く、親には将来どうやって生活するのかという心配がある。そんな親たちの安心につながる一つになればと思う」
 事業所の一角にはモデル時代の雑誌が並べられている。華やかな世界での思い出を胸に、福祉の深みへ、また一歩踏み出そうとしている。

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