谷を覆っていた朝霧がゆっくりと立ち上って消えると、眼下に小山の棚田(岡山県美咲町小山)が姿を現した。標高約560メートルの山あい。等高線に沿うように並ぶ30枚の棚田は大きなものでも幅10メートル、長さ50メートルほど。今年、農林水産省の「つなぐ棚田遺産」に選定された。
「雨が降らなかったので、1カ月近く田植えができませんでした」。17日、ここを耕作する松原一好さん(66)が教えてくれた。
マイクロバスで美咲町西川の旭小5年生15人がやって来た。はだしになり、田植え綱に沿って横一列に並びあきたこまちの苗を植えていく。「カメを踏んだ」「ヘビが出たよ」「土の中は冷たくて気持ちいい」「秋には鎌で稲刈りをしておにぎりにするんよ」―。明るい声が谷にこだました。
時代を経た棚田の石垣。触ると温かい。一つ一つ手で積み上げた先人たちの息遣いが聞こえたような気がした。ゆっくりと輪を描きながらトビが青空を舞った。