乱れるさみだれ

 旧暦の5月といえば梅雨どきだった。「五月雨(さみだれ)」は昔も今も梅雨どきに降る長雨のこと。昔の暦で言い表した季節の言葉が今なお残っている▲「さみだれ」の「さ」は「早苗(さなえ)月(旧暦の5月)」と同じように、稲作を意味する古語の「さ」で、「みだれ」は「水垂れ」、田植えの頃の雨という。「さみだれ」の一語に、古来の季節感が詰まっている▲どこかしら情趣ある雨の言葉を挙げれば切りがない。例えば前夜から降り続く雨を「宿雨(しゅくう)」、ひと所にだけ降るのを「片雨(かたあめ)」「わたくし雨」とも呼ぶらしい▲もっとも近年は「さみだれ」の後ろの3文字を「乱れ」と書いてもおかしくない。年ごとに、どこかの上空で雨雲が乱れて非情な豪雨をもたらしている。夜をまたいで降り続き、ひと所に雨を落とし続ける積乱雲の群れは、情趣には程遠い「線状降水帯」という名で呼ばれる▲県内はおとといから断続的に雨が降り、長崎市では1時間の雨量が62ミリと、非常に激しく降った所もある。きのうの朝は通勤、通学時に困り果てた方も多かったろう▲梅雨の前半の大雨が地盤をもろくすると、後半に土砂崩れが起きやすくなる。この前半の雨を、これもまた趣に欠けるが「先行降雨」と言うらしい。土砂災害の呼び水になりませんよう。“さ乱(みだ)れ”に気を緩められない。(徹)

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