人事部長として「困る50代」と「ありがたい50代」の典型例、会社が求めているものとは?

2021年4月の改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、キャリアの折り返しとなる50歳前後になった時に今後を見据えてどのように働くのか、注目が集まっています。

そこで、人事コンサルタント・西尾 太氏の著書『人事の超プロが教える 会社員 50歳からの生き残り戦略』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集して雇用する側の人事部長が見ているポイントについて解説します。


役職におごらない人

20〜40代のオフィスワーカー300名に実施した「50代社員に関する意識調査」では、50代社員について「年齢というより人によって良い悪いが分かれている」という意見が多く見られました。

「本当に凄いなって思う人と、その逆の人にはっきり分かれます」(20代・男性)
「優秀な人とそうでない人の差が大きい」(20代・女性)
「個人差が大きく、できる人は本当にできるが、そうでない人もいる」(30代・男性)

また、次のようなネガティブな意見も多数ありました。

「上から目線が気になる」(30代・男性)
「組織をまとめる力はあるが、横柄な昔気質な態度は嫌だ」(30代・女性)
「もっと責任を持って、自分の仕事をするべき」(40代・男性)

僕は42歳で独立する前は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とクリーク・アンド・リバー社という2つの会社で人事部長を務めました。人事部長として50代の社員に感じていたことは、20~40代の意見とほぼ重なります。それは人事コンサルティング業務を通じて、より多くの企業の方と接するようになった現在でも変わりません。

そこで、人事部長として困る50代と、ありがたい50代について、いくつか典型的な例を挙げてみたいと思います。これを参考にしていただくことで、「パフォーマンスより給与が高い人」になるのを防ぐことができるはずです。

まず、ありがたい50代は「役職におごらない人」です。役職に求められていることを理解して、しっかりと実行している。

部長だったら、部のビジョンと戦略を示し、その戦略に向かった目標をつくり、計画を立てる。「この部は3年後にこういう風にしていく。そのために、こういう道筋で行くよ」と言える。これをちゃんとやっている部長さんは素晴らしいです。

課長だったら、部長が示した目標や計画に沿って、1年間の課の目標を立て、部長とすり合わせ、メンバーに「今期はここまで行こうぜ」と示し、個人の目標をしっかりと立てさせてあげて、計画を立案し、進捗を管理していく。また、定期的にコミュニケーションをとって、メンバーを育成していく。これができている課長さんも素晴らしいです。

管理職には、果たすべき役割である「職位要件」というものがあります。これがちゃんとできている50代は、人事部長としても本当にありがたいです。

しかし、そういう人ばかりではありません。ビジョンも戦略もつくっていない部長さん、部下がつくってきた目標を足し算しているだけの課長さん、上から落ちてきたものをそのまま下に放り投げているだけのマネージャー。そういう人も少なくありません。

管理職としての仕事をしていないのに、偉そうにしている。

こういう人は、非常に困ります。部長なら部長、課長なら課長としての責任をしっかりと果たしていただきたいのです。20~40代の人たちもそれを見ているから、「働く人とそうでない人がいる」「仕事をしてほしい」という意見が出てくるのでしょう。

部長や課長には、責任があります。肩書きではなく、責任を果たすから偉いのです。担当部長や次長といった肩書きだけで威張っていて、「成果を出す」という肝心な部分に関しては部長に丸投げ。このような管理職も非常に困ります。

役職とは、単なる役回りにすぎません。それがあろうがなかろうが、やるべきことをする。結局はそういう人が、肩書き通り、肩書き以上の仕事をしています。

次の表は、僕たちの会社がさまざまな企業に提供している「職位要件」を明示したものです。規模にかかわらず、ほとんどのクライアントが、この要件を活用して管理職の任免の判断材料にしています。役職についている人は、自身が果たすべき役割とは何か、チェックしてみてください。

自分の得意分野を認識し、活用している人

自分の得意分野を認識し、周囲からも認められ、活用している人は、ありがたい50代です。自分は何が得意なのかをしっかりと把握し、「これに関しては僕に任せてくれ」「俺がやってみるわ」と言ってくれる。○○を頼めばやってくれる。

苦手分野も認識し、それに関しては致命傷にならないように努力し、得意分野できちんと成果を出す。自分を客観的に捉えることができ、それを仕事に活かしている。

このような50代は、「素晴らしい」(20代・男性)、「頼りやすい」(20代・女性)、「仕事ができて、とても憧れである」(20代・女性)、「社内の調整役として感謝しています」(30代・男性)と、若い世代からも高く評価されています。

一方、困るのは、何ができるのかわからない50代です。

今回のアンケートでも、50代社員に対して「存在価値が謎」(20代・男性)、「働かなさすぎる」(20代・男性)、「何もしてないし正直困る」(30代・男性)、「役に立たない」(40代・男性)といった厳しい声が多数ありました。これは会社にとっても同じです。

「何ができるのかわからない」は、20代ならまだしも、50代にもなってそれでは困ります。何ができるのか、何が得意なのか、自他共に認められなくてはいけません。「これだったら、あの人にお願いしよう」という存在にならなければ、先行きは非常に危ういです。

50代になったら、キャリアの棚卸しが必要です。

これまでの仕事を振り返り、自分は何が得意なのか、何が苦手なのか、「できることリスト」と「苦手なことリスト」を書き出してみましょう。

考えるだけでなく、書くことが大事です。人間は書くことによって脳にインプットされ、明確に認識できます。たとえ自己評価が低い人であっても、20年、30年と働いてきたのですから、得意なことは絶対にあるはずです。「自分にできることは何だろう」「若い人に教えられることは何だろう」と考えて、改めて言葉にしてみてください。

苦手なことを認識することによって、努力して克服するなり、致命傷にならないレベルまで身につけるなり、具体的な行動に移すことができます。「得意なこと」と「苦手なこと」を示してくれれば、周囲も「じゃあ、これお願いします」と言えますし、本当に苦手なことなら頼みません。それによって社内のポジションや職場における役割を明確にすることができます。

ただし、苦手なことを逆手にとって「俺はできないからやらない」といった開き直った態度はNGです。そういう態度が「積極的ではない」(20代・男性)、「デジタルツールの導入を忌避する傾向があり、今後のIT化の弊害になる」(20代・女性)、「新たな知識を取り入れようとしない」(30代・女性)、「保守的。自分で学ぶ気がないように感じる」(30代・女性)というように、若い世代からの批判の的になるのです。

苦手なことを認識し、拒否することと、迷惑にならないように努力することは、全然違う話です。謙虚に学ぶ姿勢は、50代にとって特に必要となります。

変わろうとしている人

今回のアンケートでは、「変わろうとしない50代」に対する、若い世代からの厳しい意見が多く見られました。

「古い考えの人が多い」(20代・女性)、「考え方が古すぎる」(20代・女性)、「頼りになるが、知識や考えが古かったする」(20代・女性)、「人生の経験はあるが、仕事自体ができるとは思えない。よくこれで生きてきたな~と思う」(30代・女性)、「パソコンなどでわからないことが多い気がするので、自分でも少し勉強してみてはと思うことがある」(40代・女性)、「教えても何度も同じことを訊いてくるので、メモを取るなどしてほしい」(40代・女性)、「とにかく頭が凝り固まっていて、偏見や差別がひどい。そしてこのコロナ禍でも夜な夜な飲み歩き、飲みニケーションをまだやっていて迷惑」(40代・女性)。

特に女性から辛辣な意見が多く寄せられています。

また、近い世代であるはずの40代からも「頑固」(40代・男性)、「考えが古い」(40代・男性)、「考えが固い感じがする」(40代・男性)、「ルーチンはこなすが、新しいことを行うことはあまりない」(40代・男性)といった指摘が多くありました。

にもかかわらず、50代の約半数が「特に課題と感じることはない」と考えているようです。

これはハッキリ申し上げて、相当まずい状況です。課題がない人なんていません。僕も偉そうなことを書いていますが、課題だらけです。

会社が求めているのは、「成長と変化」です。時代や社会の流れとともに、社員に求められるものも常に変わっていきます。それは50代であっても同じです。

人事部長としてありがたい50代も、「変わろうとしている人」です。課題をちゃんと認識し、必要なものについては変わろうと努力する、新しいものを身につけなくてはいけないと思っている。そういう人には、成長と変化が期待できます。

部長研修で、「俺さあ、今回初めて自分の○○に気づいたよ。ありがとう」と言ってきた部長さんがいました。素晴らしいですよね。こういう人は本当に周囲から人望があります。

自分は何を知っていて、何を知らないのか。何ができて、何ができないのか。まずはそこを自覚する。知らないことや、できないことを理解すれば、勉強するなり、努力すればいい。自分の課題を見つけることは、ビジネスパーソンにとって重要なスキルなのです。

新しいこと、知らないこと、やったことのないことを最初から拒むのではなく、「ああ、それはやったことないけど、わかった。ちょっとやってみるわ」と言える。柔軟な発想と、フットワークの軽い行動ができる50代を目指しましょう。

同じ50代でも変わろうとしている人に対しては、「若い人の声も積極的に取り入れてくれる」(20代・女性)、「勉強する意識が強く、常に改善点を探している(30代・男性)、「フットワークが軽くて良い」(30代・女性)、「柔軟に対応ができ頼りになる」(40代・女性)と、ポジティブな意見が多く寄せられています。

自分を変えるために、自身の課題を書き出しましょう。課題が思いつかないのなら、周囲の人に聞いてみましょう。

50代になっても変わり続けていきましょう。変わることは少々面倒ではありますが、やってみると楽しいものです。新たな発見・気づきと学習は、人生を豊かにするように思えますが、いかがでしょうか。

著者 西尾 太

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50代は、日本の人口で一番のボリュームゾーン。この世代が「今さら頑張っても…」「枯れてもいい」などと思っていると、日本はダメになってしまう。自分のため、家族のため、社会のために、あと20年、30年は頑張らなくてはいけない!
一方で、45歳以上の社員を「早期退職」「希望退職」という名目で、リストラする企業が急増。さらに会社員の給料は「時価払い型」に変わりつつあり、このままでは今の年収は、維持できなくなるかもしれない。
50代で「もう無理! 」と諦めている場合ではない。今後もリストラに遭わず、企業に必要な人材でありつづけるために必要なことは何か?
本書は「50代社員に関する意識調査」の結果をふまえたうえで、50代の強みを分析。必須となるコミュニケーションの知識や、転職・独立しても困らない「年収を維持・向上する力」などを解説する。
巻末に、「これだけはやめよう」「これをやってみよう」チェックリストも収録。

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