読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、67歳、会社役員の男性。2年ほど前までは米国株中心の投資信託で運用していましたが、現在の世界情勢を鑑みて手放し、現在の資産の多くは預貯金で持っているといいます。今後のポートフォリオについて悩んでいるそうですが、プロの意見は? FPの伊藤亮太氏がお答えします。
67歳、会社役員です。現在、妻63歳と夫婦2人暮らしで、年収は1,000万円余り(税込)。自己所有の戸建住宅に住んでおり、金融資産は約5,000万円くらいです。
2カ月くらい前まで、主として米国株中心の投資信託で運用してきましたが、先行き不透明な情勢から一旦手じまいとし、現在リスク資産は社債等で1,000万円くらい運用している程度で、残りの多くは預貯金に置いています。
今後の運用について、ポートフォリオをどうしようかと悩んでいます。
【相談者プロフィール】
・男性、67歳、会社役員・妻、63歳、パート ・子ども:40歳(別居)
・住居の形態: 持ち家(戸建て、近畿地方)
・毎月の世帯の手取り金額:77万円(妻10万円と厚生年金)
・ボーナスの有無:なし
・毎月の世帯の支出の目安:40万円
【毎月の支出の内訳】
・住居費:0円
・食費:10万円
・水道光熱費:3万円
・保険料:2万円
・通信費:6万円
・車両費:3万円
・お小遣い:10万円
【資産状況】
・毎月の貯蓄額:20万円
・現在の貯金総額(投資分は含まない):3,000万円
・現在の投資総額: 1,500万円
・現在の負債総額:0万円
伊藤:ファイナンシャル・プランナーの伊藤亮太です。回答させていただきます。
現状を考慮すると、米国株中心の投資信託を手じまいされたことは懸命かと思います。年齢的にも、長期投資から、徐々に短期~中期の投資へと変えていく必要があると感じます。
無理に投資をする必要はないが、現状の生活費のままだと不安も
まず、現状の資産4,500万円と年金等今後の収入が見込める点から、無理に投資はされる必要はないと考えます。また、仮に70歳まで会社役員を務めると仮定した場合、年間240万円の貯蓄が可能であり、3年間でおおよそ720万円が貯まると見込まれます。これらの合計から、70歳時点で5,000万円超の資産がおありになるため、一般的な生活であれば当分心配はいらないでしょう。
とはいえ、毎月の生活費が現在同様、月に40万円支出するということですと、80歳後半までは資産がもたない可能性もあります。そこで運用をどうしようか不安になられていると察します。厚生年金等を受給するとしても、ある程度安心した生活設計を構築したいですよね。
今後必要なのはインフレ対策
詳細までは相談内容からはわからないため、あくまでも資産運用という視点から解説します。今後の対策として必要になるのは、インフレ対策です。少なくとも、インフレに対応した資産構築とすることで、実質的な生活水準を維持できるようにする必要があります。そのためにも、年2~3%程度の運用利回りを確保していく必要があるといえます。
現在の社債がどの程度の金利収入があるのかわかりませんが、社債だけではなかなか大変かもしれません。ましてや、世界的に金利上昇が見込まれる中、日本でも金利が上がるリスクは拭いきれません。金利上昇により、場合によっては社債価値が毀損する恐れもあります。
物価連動国債を検討してみては
そこで、物価対策という視点から、物価連動国債はいかがでしょうか? 日本の物価連動国債では物足りないということでしたら、米国の物価連動国債に投資するETFなどもよいかもしれません。
例えば、iシェアーズ 米国物価連動国債ETF(TIP)はいかがでしょう。コストも年0.19%と低く、分配金利回りは2022年6月19日時点で6.79%となっています。分配金が受け取れること、昨今の日米金利差によるドル高円安の為替差益が享受できる可能性があること、米国の物価上昇に対応できる可能性があることといった点からメリットがあると考えます。米国株よりはリスクは低く抑えられると思いますので、運用先の一つとして検討してみてください。
今なら日本株式という選択肢も
そして、今だからこそ言えますが、日本株式が割安水準に入ってきています。どうしても米国株の動向に左右される側面がある日本株ではあるものの、内需株を中心に検討されてはいかがでしょうか。例えば、鉄道、航空株は今後のインバウンド、旅行者増加による期待が持てます。特にご自身のお住まいの地域の鉄道株を中心に、株主優待が活用できるようにされるとよいと思います。
また、意外な点と思われるかもしれませんが、銀行株にも注目されてみてはいかがでしょうか。仮に日本でも金利が上がった場合を想定すると、金利上昇により恩恵を受けるのは銀行です。もちろん、すべての銀行が必ずしも順調になるとはいえないものの、業績が上向いてきており、かつ配当利回りの高い銀行や、ご自身が普段利用する銀行の株式はどうか検討されるとよいと思います。銀行株の中には、配当利回りが5%を超えているものもあり、配当生活も楽しめます。
今回の内容をまとめると…
あくまでこうした資産運用は一部の資金にすべきであり、現預金を主体にすべきですが、物価連動国債でインフレ・為替対策、鉄道株で値上がり益期待、銀行株で配当期待と金利上昇時のヘッジを行う。分散させることでご自身の資産を守りつつ少しは増やすといった対策をしてみてはいかがでしょうか。