【おんなの目】 さようなら

 先日、伯母の葬儀に出かけた。満百五歳。M市の長寿番付では、数年間横綱を張っていた。自宅で娘一家と暮らし、亡くなる三日前まで自力でトイレに行っていた。眠るような大往生といえども、長年共に生きてきた者には、頬を撫でる風のような、そこはかとない悲しみは伴う。が、葬儀の終わる頃には、家族の顔に安堵の微笑みが見られた。百五歳のなせる業だ。

 百歳近くで亡くなった人には、誰がいるのだろう、と『人間臨終図鑑・山田風太郎著』を広げた。

 野上弥生子。百歳。作家。亡くなる直前まで長編小説「森」を毎日原稿用紙二枚ほど書いていた。あと数十枚を残して未完の作品となった。

 理想的な人生であり臨終だ。

 物集高量(もずめたかかず)百六歳。学者。長寿の秘訣を問われると「正直に生きないこと。恋っていうのが一番いいんです」と答えていた。

 そうかもしれないですね。

 平櫛田中(ひらぐしでんちゅう)百七歳。彫刻家。陽が暮れるとともに寝、日の昇るとともに起き、食べ物は蕎麦と餅を好み、日和下駄をはいて前かがみの姿勢で足早に歩いた。

 なんといっても横綱は、泉重千代(いずみしげちよ)百二十一歳。亡くなる直前の言葉は「焼酎をおくれ」。

 皆様お元気でお過ごしくださいませ。

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