コロナで中止続く地域行事…薄れる近所付き合いに不安の声 高齢化進む集落では災害時への懸念も

高齢者宅を訪問する民生委員の岡本さん(左)。「単身高齢者の力に少しでもなりたい」と話す=6月、福井県福井市内

 夕方6時ごろから深夜まで、櫓(やぐら)を中心に老若男女が輪になって踊る。福井県越前町厨は、毎年お盆の2日間、海沿いで盆踊りの催しを開いてきた。地元住民で、同町民生委員児童委員協議会の別司正晴会長(74)は「帰省した懐かしい顔もある。お盆前後は人口が3倍ぐらいになる」と笑う。

 厨を含む越前地区では新型コロナウイルスの影響で2020年と21年、集落単位の盆踊りが軒並み中止になった。厨では区の総会もままならず、消防団や民生委員、老人クラブ、婦人会など各種団体の長を集めた年に一度の意見交換会と懇親会もなくなった。

 別司さんは「懇親会は社会の潤滑油。一杯やって顔を覚えれば、お互い細かい要望もできる。その機会がコロナで奪われた」。地区の運動会がなくなったという同町の女性民生委員(60代)は「運動会で人が集まると、『○○さんは入院した』『▽▽さんは、田んぼでけがをした』といった話が出て、情報を共有できる。今は各世帯の状態がまるで分からない」。

 対策を講じた上でのイベント開催を模索しても、住民から「飲食できない催しは楽しくない」と反対されるケースもあるという。

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 地域の行事中止が続き、高齢者は外出しなくなり、人間関係が希薄になっていく。福井市西部民生児童委員協議会の岡本美代子会長(74)は「防災訓練もなくなった。水害や地震などの災害が心配」と話す。さらに「大雪になれば高齢者は玄関先の雪かきができず、買い物に行けない。近所付き合いがなくなれば、隣の家にお願いすることもできない」と指摘する。

 宅配の弁当を毎日注文している単身高齢者は、食料の買い置きがないケースもある。災害で宅配が止まれば、生死にかかわる。岡本さんは「コロナは高齢者の深刻な状況を覆い隠してしまう」と話す。

 「民生委員の存在は心強い。ありがたい」。1人暮らしの齋藤ツトムさん(84)=福井市=は、岡本さんの定期的な訪問を心待ちにしている。困ったことがあると、つい電話をしてしまうという。

 新型コロナはお年寄りと民生委員の交流も制限した。以前は高齢者宅の玄関先で互いに長話をすることもあったが、感染対策でめっきり減った。

 岡本さんが民生委員になったのは27年前。「認知症で外をふらふら歩いていた義母を、地域の人が見守って助けてくれた。地域に恩返しをしたかった」と活動の原点を振り返る。

 県内の高齢化率は30%を超え、20年の単身高齢者は3万1367世帯に上る。岡本さんは「あそこのおばちゃん、最近見かけなくなったな、という発想そのものがなくなりつつある」。変わりゆく地域の姿に不安を覚える。

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