若きエース&キング、名将のDNA…柏レイソルは11年ぶりの栄冠を手にできるのか

注目の上位対決となったJ1第18節の横浜F・マリノス対柏レイソルの一戦。

試合後にネルシーニョ監督が発した言葉が、0-4というスコアで敗れたアウェイチームの苦戦ぶりを物語っていた。

「今日のゲームを振り返って見たとき、これまで前半戦にチームとして取り組んでいたことがまったく機能しませんでした。

(中略)戦う姿勢だったり選手個々のパーソナリティーだったり、相手との駆け引き、球際でバトルする戦う姿勢を欠いていましたし、序盤の入りが最後まで響いた結果なのかなと」

指揮官の総括通り、この日の柏は“らしさ”を欠いた。

17分に先制を許すと、その2分後にはミスから2点目を奪われ、悪い流れのまま28分にも失点。横浜FMの巧みなポゼッションを前に、終始リズムを掴めないままタイムアップを迎えた。シュート数も計4本に抑えられ、攻守両面で課題が出たと言えるだろう。

首位チーム相手にショッキングな敗戦を喫したとはいえ、前半戦を4位という好位置で折り返した柏は、今季の大きなサプライズである。好調の要因は一体どこにあるのか、紐解いていきたい。

今季の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はU-21代表の佐々木雅士が務め、3バックは右から対人戦に強さを見せる高橋祐治、成長著しい上島拓巳、サイドバックにも対応する古賀太陽。

ウイングバックは右がセンターバックと兼務する大南拓磨または上下動が光る川口尚紀で、左は正確なクロスを武器とする三丸拡が不動の存在として君臨している。

中盤はアンカーにフィルター役の椎橋慧也が入り、インサイドハーフは右に攻撃の中心としてチャンスメイクを担うマテウス・サヴィオ、左が豊富な運動量で攻守に貢献する戸嶋祥郎というバランスの取れた組み合わせ。

最前線は抜群のスピードでピッチを駆ける小屋松知哉と得点源として牽引する細谷真大が2トップを形成する。

“スピードスター”小屋松

この両名が抜きん出ている印象だが、ルーキーながらインパクトを残す森海渡、森と同じく下部組織出身の升掛友護、真家英嵩やベテランの武藤雄樹も控えており、様々なチョイスが可能である。

名将のDNA×育成の名門の相互作用

前半戦の好調ぶりを語るうえで欠かせないのが、チームを束ねるネルシーニョ監督だ。

長期政権となったネルシーニョ監督

第一次政権(2009年8月~2014年12月)では、2010シーズンのJ2優勝を皮切りに、翌シーズンのJ1優勝など数々のタイトルを獲得。2019シーズンから再び指揮を執る名将は、コンセプトの徹底と若手の抜擢を両立させながら好チームを作り上げている。

基本戦術はカウンターで、コンパクトな守備ブロックから逆襲に転じる。センターバックがインサイドハーフまたは2トップへ縦パスを入れ、相手守備陣に生じたギャップを突いていくのが主な崩し形だ。

また、状況に応じて前線から連動したプレスを仕掛けるのも特徴で、ハードワークが基本的かつ重要な約束事。「いい守備からいい攻撃へ」というコンセプトの徹底がピッチ上から読み取れる。

加えて、アカデミー育ちの若武者の躊躇なき抜擢も見逃せないポイントだ。

国内屈指の育成機関として知られる柏ユースは、これまで明神智和、近藤直也、大谷秀和、酒井宏樹、工藤壮人、中村航輔、中山雄太ら多くの名プレーヤーを輩出してきた。

日本代表の中山雄太も柏ユース出身。2017年には新人王に輝いた

現チームでは、リベロの定位置を確保した上島、ゲームキャプテンとして指揮官の信頼も厚い古賀が中核を担う存在となり、U-21代表の細谷がエースへと成長。同じくU-21代表の佐々木もレギュラーを掴みそうで、ここまでリーグ戦4ゴールの森も貴重な交代のカードとなっている。

前線は他にも升掛、真家、鵜木郁哉と有望株が揃っており、ネルシーニョ監督のもとでどこまで成長できるか楽しみだ。

エースとキングの二枚看板が牽引

個人にフォーカスを当てると、チームトップタイとなるリーグ戦6得点(18節終了時点)をそれぞれマークしている細谷真大とマテウス・サヴィオの活躍が目覚ましい。

前者(細谷)はDFライン裏への抜け出し、マーカーとの駆け引き、ボールを呼び込む動き、そしてゴールへの嗅覚が秀逸な点取り屋。実に9番らしいエリア内の仕事人だ。

前半戦だけで昨シーズンに記録したリーグ戦3得点を超えており、今季のふた桁得点はもはやノルマと言ってもいいだろう。世代別代表はもちろんのこと、ゆくゆくはA代表でも主軸となってほしい逸材だ。

次世代のエースとして期待がかかる細谷真大

中盤で異彩を放つ後者(サヴィオ)は、高確率でチャンスに結びつくスルーパス、切れ味鋭いドリブル、高精度のプレースキックとオフェンス能力全般に優れるアタッカーだ。アタッキングサードで違いを生み出すだけでなく、自己犠牲の精神もあり、Jリーグ向きの助っ人でもある。

そんな10番がもっとも輝いた試合が、第16節の清水エスパルス戦だ。

ペナルティエリア前で戸嶋からのパスを受けると、巧みな切り返しでマーカーをかわし、空いたスペースへ持ち出して左足を一閃。この強烈ミドル弾は5月度の月間ベストゴールを受賞するなど高く評価された。

背番号10、ブラジリアン、そして観る者を唸らせるテクニックと言えば、かつて在籍したレジェンド、レアンドロ・ドミンゲスを彷彿とさせる。

偉大な“キング”の系譜に連なるアタッカーは、後半戦の注目ポイントだ。

次節の鹿島戦を乗り越えられれば……

上り調子のエースとキングが出色のパフォーマンスで引っ張り、18節終了時点で5位と上位をキープ。横浜FMとのビッグマッチを落としたとはいえ、引き続き上位争いを展開中だ。

次節の相手は2位の鹿島アントラーズ。開幕からゴールを量産する上田綺世とオールラウンダーの鈴木優磨という強力2トップを擁する難敵である。

注視したいのは、キックオフから30分の戦い方。

「J STATS」によると、失点の最も多い時間帯が前半15分~30分ということで、この時間帯をゼロに抑えられるかがカギとなる。前節の横浜FM戦ではこの15分間で3失点しており、修正点は明らか。次節はしっかりと立て直したいところだ。

再びのビッグマッチで勝ち点を奪うことができなければ、上位陣との差が開いてしまう恐れがある。

最低でも勝ち点1は獲得し、上位争いに食らいついていけるか。後半戦は始まったばかりだが、鹿島とのホームゲームはカップ戦の決勝と同じくらい重要な意味合いを持つ。

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ここを乗り越えれば、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)圏内となる3位以内、そして11年ぶりとなるリーグ優勝も見えてくるだろう。

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