<南風>VMAT

 VMATとは。あまりなじみのない言葉かと思うが、災害派遣「獣医療」チームの略語である。近年、さまざまな地球環境の変化による自然災害は毎年のように世界中で発生していて、沖縄も例外ではないことは皆さま実感されている通りだろう。そんな中、人の医師の世界では阪神淡路大震災をきっかけに、2005年にDMAT災害派遣医療チームが設立され、今では日本各地で起きた災害現場の前線で、人々の命を守るために活躍している。

 一方で我々獣医師の世界は東日本大震災で多くのペットが被災地に取り残されたことを教訓に、13年に福岡県獣医師会が日本で初めてVMATを設立した。

 ただ、災害時に人の命を守るDMATに比べVMATの活動は、ペット飼育者でない方々にはややイメージがしにくく、必要性も理解しづらいのではないか。

 そこでいくつか事例を出して紹介させてもらうと、06年の新潟県中越地震では、犬を連れた女性が避難所に入ることができずに車中泊を続けた結果、エコノミークラス症候群で死亡した。ある文献では、約2割の飼い主がペットと一緒でないと避難しないと報告している。東日本大震災では、多数の動物が取り残され、餓死や野生化する事態も起き、その後の生態系や再建への影響も危惧された。このような事例が再び起きる可能性は十分にあり、他にも動物を救助することが、結果的に人命救助につながる事例は、これまでの災害現場においても多数存在している。

 私たちVMATが目指しているのは災害時においても、人と動物の共生ができる環境をスムーズに提供することであり、ペット飼育者はもちろん、そうでない多くの人々にとっても必要とされる存在でありたいという思いで日々活動している。次回は沖縄での実際の活動について紹介する。

(周本剛大、琉球動物医療センター院長 沖縄VMAT隊長)

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